第15話 迷宮現界





「私のダンジョンへようこそ♪」


そう言った目の前の少女と、隣で汗を滲ませている師匠グラディウスを横目に


(あぁ、このダンジョンに足を踏み入れたのは間違いだったな)心底そう思った。







〈数時間前〉


入学まで三ヶ月となったある日、俺は魔物との戦闘に慣れるために、グラディウス師匠と共にB級ダンジョンに訪れていた。


この世界には、魔王が居る唯一のSSS級ダンジョン『魔王城』から、最低ランクのE級ダンジョンまであり、基本的にC級以下のダンジョンは、ダンジョンボスを倒しても消滅することはせず、数日後にボスがリスポーンして再挑戦が可能になるが、A級以上のダンジョンは、一度クリアするとダンジョン自体が消滅し、再挑戦することは出来ない仕様となっている。


だからこの世界の人たちは、C級以下のダンジョンでレベル上げをしてから上のダンジョンを攻略している。ちなみにB級ダンジョンの推奨レベルは30だ。


「ふぅ、まあこんなもんですかね」


「うむ、問題なく狩れるようじゃな」


(そりゃいつもは人類最強のあんたと戦ってんだからな!)

なんて心の中で愚痴を吐きつつ、周囲に散らばったオークの死体を見回す。


予想してたより恐怖はなかった。まぁ、レベル65の俺からしたらレベル30程度の敵など相手にならないしな。なにより、師匠が居てくれるだけで不測の事態でもなんとかしてくれるという安心感があるのだが。



ダンジョンを出て歩いていると、干渉のスキルを使って索敵していた俺は生い茂った林の中に、一箇所だけ木々が一本も生えていない空間を見つけた。


「師匠、この先に不自然に開けた場所があるのですが、なにかあるのでしょうか」


「いや、知らんな。三日前にもここに来たが、その時はそのような場所は無かったぞ」


「つまりこれは、ほんとに直近にできたものということですね」


「うむ...何が起こるか分からんが、行ってみるか?」


師匠の問いかけに、一瞬迷いが生まれた。


(原作ではこの場所では特にイベントは起きていなかった。つまりこれはイレギュラーだ。さすがに危険か?)


「...行きます。」


ここには最強師匠が居る。大抵の事はなんとかなるだろう、そう思った。


そう思ってしまった。



少し歩き、目的の場所に着いた。周りにはおかしな建物なんて特に無い。そう判断し、一歩前に踏み出した。


その瞬間、俺は師匠に抱えられてその場から離脱した。


状況についていけない俺をよそに、この地に変化が起きる。


ゴゴゴゴゴゴ

突然の地響き。そして、地面を突き破って出てきたのは_________『大樹』

表面が綺麗で美しく、神々しさまで感じてしまいそうなほどの大樹が姿を現した。高さは500mはありそうだ。


「これはまさか...『迷宮現界マテリアライズ』!?」


「そのようじゃな。ククク、これまで何度もダンジョンに潜ってきたが、ダンジョンが生まれる瞬間を見たのは初めてじゃ。」


初めて見る、額に汗を滲ませている師匠の姿に、俺も緊張感が高まる。


大樹の根元部分に、まるで俺たちを誘い込むかのように穴が空いている。おそらくあそこが入口だろう。


「少し危険じゃが、少なくともこのダンジョンのランクを確かめねばな。ルキヤ、お前はここにいてもいいのじゃぞ」


「いいえ、行かせてください。たとえ危険であろうと、この先に何があるのか見てみたいのです。」


俺の決意を聞いた師匠は無言で頷き、二人揃って足を踏み入れた。



ダンジョンの中は、書庫だった。大樹の形に沿った円形で、高さは大樹の頂点まで全て吹き抜けになっていた。周りを見回すと全面本だらけ。魔物の気配など一切しない。念の為干渉スキルでも確認してみるが、やはり何も______


「「!?」」


不意に背後へ現れた気配に反応し、俺と師匠が同時に振り向き戦闘態勢に入る。そこに居たのは


「ねえ、おにいちゃんとおじいちゃん、だあれ?」


長い白髪に大きなリボンをつけたゴスロリ衣装の女の子。身長的にまだ八歳くらいだろうか。そして、魔力も全く感じなかったから、俺は戦闘態勢を解いた。


「君、迷い込んでしまったのかい?俺はルキヤ。君の名前はなんて言うのかな?」


妹のメイに話しかけるように優しく問いかける。


「私はアリスだよ、ルキヤおにーちゃん」


満面の笑みで答えてくれるアリスちゃん。


「アリスちゃんね、OK。それでアリスちゃん、ここは今は魔物がいないけど、ダンジョンなんだ。」


「うん、そうだよ!このダンジョンには今、アリスと、ルキヤおにーちゃんと、そこのおじいちゃんと、しかいないんだ〜」


「ん?アリスちゃんのお友達も迷い込んでしまったのかい?」


「ううん、ちがうよ!パパにときに、アリスが寂しくならないようにって、お友達いっぱいくれたんだ♪」


「ダンジョンを...もらった?」


(どういうことだ?ダンジョンは全て魔王の所有物のはずだ。それって...まさか!?)


「うん!えーっと、なんだっけ...あ、SSS『幻想図書館』って言うんだよ!」


アリスが言ったことを理解し、全身の血の気が引く。


「私のダンジョンへようこそ!いーっぱい遊ぼうね♪」


原作には登場しなかった二つ目のSSS級ダンジョンが、ルキヤとグラディウスに牙を剥く。




___________

《作者コメント》

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