第11話 二年後



俺がルキヤとして目覚めてから約二年。師匠たちの稽古は地獄のような日々だった。自分の派閥を作る余裕など無く、稽古の日は動くことのできないほど疲労し、次の日は一日中体力の回復に務め、その翌日にはまた稽古。それの繰り返しであった。


マーリン師匠の魔法指南は、まだ前世のゲーム知識を活かせるから良かったが、グラディウス師匠の剣術指南は、実際に体を動かさねば知識があっても意味は無く、師匠からの細かい指導も無くただ延々と模擬戦をするだけなので、手探り状態だった。挑んではボコボコにされ、挑んでは叩きのめされの繰り返しだった。


唯一癒しがあるのだとしたら、それは休みの日にいつも来てくれるアイゼナの存在だろう。疲れてベッドから起き上がれない日は、ベッドの横にある椅子に座り話し相手になってくれたり、気分転換にと外へ連れ出してくれたり、俺の心が折れなかったのは彼女の献身のおかげと言っても過言ではない。


俺がどれだけ弱くても、師匠の二人は俺を見捨てることはなく、週四日欠かすことは無く指導を続けてくれた。そのおかげで、今の俺はレベル29。覚醒条件のレベル30目前だった。


そして今日の模擬戦中、ついにその時がきた。レベル30になった瞬間、俺の体が光で包み込まれて、全身が焼かれるように熱くなった。少し苦しいが、俺はそれを抵抗せずに受け入れる。師匠たちが見守ってくれているから問題ない。俺は二人を完全に信頼している。


やがて光が収まったが、体の奥底から力が湧き出る感覚は止まることがない。


「クックック、面白いことになったな。」


「えぇ、こんな現象初めて目撃しました」


驚く師匠たち。しかしその眼差しは、奇異ではなく暖かいもの。弟子の成長を心から喜んでいるものであった。


「んじゃ、見せてもらおうか。愛弟子の新しい力をなっ!」


そう言って模擬戦を再開するグラディウス師匠。以前は師匠の姿が消えたような感覚に陥るのだが、今は見える。全身の神経が研ぎ澄まされているのが分かる。俺は「すうっ」と息を吐き、師匠の剣に俺の剣をぶつける。これまでのように吹き飛ばされたりはしない。まともに打ち合ってる。たったそれだけのことだが、俺には泣きそうなほど嬉しいことだった。


「まさかここまでとは、本当に面白い弟子じゃな。わしの五割に反応できるとはな。では、七割はどうじゃ?」


刹那、師匠の剣が目の前にあった。


まぁ、覚醒したと言ってもすぐに人類最強クラスの傑物に適うなんて思っていなかった。俺が目指す師匠の背中は、未だ遠く、遥かに高い。残り二年、俺はなんとしてでもその背中に近づく、そう心に決めた。




___________

《作者コメント》

昨日更新出来なくて申し訳ないです。その代わり本日はもう一話更新予定なのでよろしくお願いします!次はマーリン師匠との魔法指南の予定!

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