第7話 大切な思い出【後編】



《アイゼナ・クロイツ視点》


彼の部屋を見た私は、彼がこの一室だけで生活していることに気づいた。


「あなた、部屋の外には出ないの?」


「...最後に部屋を出たのは、昔過ぎて覚えてないよ。昔、僕は魔力量の多さから、神童と呼ばれるほど期待されていたんだ。でも四歳のときに、多すぎる魔力が体の中で不具合を起こして、二年間も体を動かすことができなかったんだ。」


「なるほど。それなら部屋から出られないのも仕方がないでしょう。でも、体を動かせなかったのは二年間。動かせるようになってから二年も経ってるはずなのに、どうしてあなたは外に出ないのかしら?」


彼はひと呼吸おいて話し出した。


「体を動かせなかった二年間、僕は多くの人に助けられたんだ。医者はもちろん、メイドや執事、バルコニーに花を植えてくれた庭師の人たち。他にも数え切れないほどの人たちに僕は救われた。僕は彼らへの感謝を忘れたことは無い。僕も将来、多くの人を助けたいと思ったよ。

上半身が動くようになったときに、僕は部屋に置かれている大量の本が気になって、起きている間は本を読むことにした。特に面白かったのは、国の歴史の話。勇者とか魔王が出てきたりして、僕は、悪を倒し正義を執行する、人々を助ける勇者の姿に憧れてたんだ。」


「でも、あなた達は」


「うん。僕はこの国にとっての悪である貴族派のトップの子供だった。貴族派というのを知った僕はショックだったよ。だって、領民に圧政を敷き、裏で悪事を働いているなんて言われていたから。完全な悪だったから。信じられなかった、いつも優しい父上がそんなことをしていたなんて。父上が貴族派のトップであることを認めた日から、僕は父上のことが好きになれなくなった。まぁ、全く外に出てない僕の心が未熟で現実を受け止めきれなかっただけなんだけどね。」


悲しげな表情を浮かべた後に、無理して笑った彼の頭を、私は自然と抱きとめ撫でていた。


「辛かったでしょう。救ってくれた人たちに恩返ししようとしても、貴族派メルギアの名前がついているだけで拒絶されてしまうかもしれない。あなたがそれを恐れるのは当然のことです。その名があなたを悪に縛り付けている。」


俯いたままの彼に告げる。


「私は、そんなあなたを救いたい。その鎖から解き放ってあげたいの。」


「えっ...」


「机の上に置いてあるあの本。あれ、医学の本でしょう?あなたは、縛り付けられていてもなお、他の人を救おうとしている。私は、努力する人と、優しい人と、諦めない人が好きよ。まぁ、その内気な性格は直して欲しいのだけど。それでもあなた以上に魅力を感じた人はいないわ。」


「!?え、えっと「アイゼナ王女さまー!」」


はぁ、長居しすぎたわね、そろそろ戻らないと。

けどその前に


「絶対にあなたを外に連れ出してみせるから、覚悟しといてよね!」


そう言って私は彼の頬にキスをした。顔を真っ赤に染め、状況を理解していなさそうな彼を置いて、私は急いで部屋の外に出た。彼と同じくらい真っ赤に染まった自分の顔を見られたくなかったからだ。






これが彼と私の出会い。大切な思い出です。今思い出してもあの時の行為はとても恥ずかしいです。


あの後城に戻った私は、お母様に今日あった出来事と私の想いを全て話しました。そこでお母様から、貴族派と王権派の真の関係を教えてもらった私は、彼を連れ出すのではなく、誤解を解きたいと思いました。公爵様が家族を愛しているのは本当だし、実の父親を悪呼ばわりしていた彼の表情はとても辛そうだったので。


目標を定めた私は、以前は適当にやっていた花嫁修業に真剣に取り組むようになった。来るべきその日に備えて。


そして昨日、ようやくその日がやってきた。公爵様が突然発表された、次男、ルキヤ・メルギアの婚約者募集。私はずっと応援してくれていたお母様と一緒に、お父様に直談判をした。お父様は最初は難しそうな顔をしていたけど、お母様が会話に加わり圧をかけると、お父様は一瞬で堕ちた。私もいつかお母様みたいなかっこいい女性になりたい、そう思いました。


彼に会ってやるべき事は、まずは誤解を解いて仲直りさせて、その後に彼の内気な性格を変える。そしてプロポーズ!やばい、緊張してきた。大丈夫、この日のために何年も準備してきたんだから。絶対成功させてみせる!


そんなことを思い返していると、私が居る応接室のドアがノックされる。


私が返事をすると、公爵様と彼が入ってくる。


「父上、こちらの女性は?」


ん?


「こちらの方はアイゼナ・クロイツ。この国の第二王女だぞ、ルキヤよ。」


!?!?!?


あれ!?なんか仲直りしてない!?


「初めまして、アイゼナ王女。私はメルギア公爵家次男、ルキヤ・メルギアです。」


そう言って礼をしてきた彼は、私のことを深紅の瞳で見つめてきた。昔は優しげだった目が、つり目に変わっていて、凛々しさが伝わってきた。


あれ!?これのどこが内気なの!?普通に堂々としてるし所作もスムーズで綺麗だし、ていうかその目で見つめないで!つり目になった分凛々しくてかっこいい!私のタイプど真ん中じゃん!


心の中で暴れ回っていた私だけど、何も言わない私を、二人が不思議そうに見てきたので、なにか言わなければ。


ええっと、ええっとやるべき事一崩壊!やるべき事二崩壊!ええっと、ええっと



「結婚してください!!!!」



やるべき事しか頭に入っていなかった私は、そのうちの二つが崩壊してしまい、焦りまくっていた。


王女からの突然のプロポーズに固まってしまった二人を尻目に、私は天を仰ぐ。






やっちゃったかな、これ。





___________

《作者コメント》

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