第6話 大切な思い出 【前編】



《アイゼナ・クロイツ視点》


私は今、できる限りのおめかしをして、メルギア公爵邸にお邪魔しています。父である国王と共に。到着して早々、お父様は「貴族派のトップと話をしてくる」なんてカッコつけて言ってましたが、要するに、学友であったメルギア公爵様とお酒でも飲むということでしょう。

私も王族の一人なので、現在の王権派と貴族派の関係、お互いのトップが仲良しというのはお母様から既に聞いております。


ですので、お父様のあのような演技など、娘の私からしたらとても滑稽なものです。はぁ、やはりあの方以外の男性からは魅力を全く感じませんね。でも、ようやく今日あの方と再会できます。初めて会ったあの日から、私はあなたをお慕いしております。





あれは三年前の話。

八歳だった私は、既に男という存在に興味を無くしていた。私に近づく男は、皆王女という私の肩書きや私の体目当て。どいつもこいつも私に気に入られるようにご機嫌とりのお世辞ばっかりで、本当の私を見ようともしない。どうせ外面がいいのも私の前でだけなんだろう。本当につまらない、くだらない。



そんなひねくれた性格に育った私はある日、お父様と一緒にメルギア公爵家の長男、ロイド・メルギアの十五歳の記念パーティーに参加していた。当時の私は、お父様とメルギア公爵様の関係など知らず、貴族派というのは敵だと思っていたから、あまり会場の中に長居したくなかった私は、一人でコソッと会場の外に出た。


門の警備員以外の人は皆パーティーの手伝いをしていることもあり、公爵邸は静まり返っていた。王城よりは小さいけどそれでも公爵邸は大きく、案内も無しに歩いていたから、気づいたら私は迷子になっていた。


どの道が会場への道だったのかを忘れて困っていた私は、ふと、廊下の奥の部屋の電気がついていることに気づいた。道を教えてもらおうと思いノックしたドアから出て来たのは、私と同じくらいの男の子。普段媚びを売ってくるほかの貴族の何倍も顔が整っていた。しかし、私はそんなことではときめかない。


「えっと、どうしたんですか?」


私が見つめてしまったせいで、気まづくなった彼が声をかけてきた。ここに私室を持つということは、目の前の男はおそらくメルギア公爵家次男のルキヤ。私が王女ということに気づいてないのかしら。


社交界に全く姿を見せないと噂の彼に、私は少し興味を持った。まぁ、パーティーが閉会になるまでの話し相手になってもらう程度のものだったが。


「あなたと話がしたいの。少しいいかしら。」


「ええっ!?き、汚い部屋かもしれませんが、それでも良ければ、どうぞ...」


幼い頃から汚い大人たちの媚びなどを見てきたから、私は演技をしている人としていない人を見分けることができる。先程からの態度や反応、目線の動きからして、彼は真っ白。今までみたことないほど純粋な男の子だった。だから私は安心して、初対面の男の子の部屋に入った。


「えっ...」


彼の部屋に入って中を少し案内してもらった私は、思わず驚いてしまった。私の部屋よりもずっと大きく、ベッドはもちろん、大量の本が入った本棚がいくつも並び、トイレに風呂まであり、バルコニーには美しい花が何本も咲いていた。


私は少し違和感を感じ始めていたけど、彼の机の上の、先程まで読んでいたであろう本の隣に、使用済みの食器が置いてあることに気づき、私は違和感の正体が分かった。




彼は、この一室だけで暮らしているんだ。




___________

《作者コメント》

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