Ⅱ 間違った鬼ごっこ (花嫁のスピーチ 2 )
帆尊歩
第1話 花嫁のスピーチ 2
今日この場にお父さんはいません。
誰よりここにいて欲しいお父さん。
誰より、ありがとうを伝えたいお父さん。
実の娘でもないのに、慈しんでくれたお父さん。
まだ若いのに、私のための人生を捧げてくれたお父さん。
誰よりもありがとうを言わなければならないお父さん。
でもお父さんはこの場に来てくれなかった。
理由は。
自分が若すぎるから。
自分は実の父親ではないから。
絶対に、ここに来たいはずなのに。
絶対に、ここで私への祝福をしたいはずなのに。
絶対に、ここで私の花嫁姿を見たいはずなのに。
くだらない勇気で、我慢するなんて、馬鹿げている。
いくら母の兄妹から、遠慮しろと言われたからと言って。
私の幸せを考えろと言われたからと言って。
そんな若い父親なんて、私が恥ずかしい思いをする。なんて言われたからと言って。
叔父や叔母が、お父さんのことを良くは思っていない事は、よく分かっていました。
でも私は、そんものには負けない。
そして、お父さんもそんなものには負けないと思っていたのに、どうしてここに来てそんな口車に乗るのよ。
お父さん。
そんな事、私が一ミリも望んでいないことは分かっているはずなのに、いえ それどころか誰よりも感謝を伝えたいのがお父さんだということが分かっていながら。
どうしてここにいない。
鬼ごっこで、鬼を間違えたような物。
お父さん、あなたのしたことは無言でさよならを言ったようなもの。
私を宝物と思うなら、それを行方不明にしたようなもの。
そしてお父さんをそう、そそのかした人は、心を悪魔に売ったようなもの。
だからこの場にお父さんはいませんが、だからこそ本当の思いを言えるような気がします。
お父さんは母が亡くなって、親父ギャグを言う相手がいなくなり、その標的を私にロックオンしましたね。
あの初めてお父さんと呼べた、高三の終わり以前が懐かしく思うほどに、お父さんは遠慮がなくなりましたね。
「ああ、うるさい、うるさい。お父さん、うら若きピュアーな若い娘が、そんなギャグに面白がると思っているの」そう言うと、嬉しそうに微笑みながら、「うら若き、ピュアーな若い娘」もギャグみたいなものだろうと返してきましたね。
「ああー、うるさい、うるさい。オヤジがうつるから止めてよね」と、また私が騒ぎたてましたね。でもそれは母とお父さんが、かつて言い合っていたこととそっくりでしたね。
お父さん、私はあなたに対して、決して許せないことが一つあります。
私は、学校で友達と話しているとき、服の着こなしの話になったときに、思わずお父さんが言っていたことを無意識に言ってしまいました。
「やっぱりさー、コーディネートはこうでいないと」と、どれほど私が恥ずかしい思いをしたことか。
これは完全に、あなたの病気を移された結果です。私はお父さんから、親父ギャグを言うという病気を染されてしまったのです。
これについては、責任を取ってもらわないと困ります。
だからこそ、その責任を取ってここに来て欲しかった。
お父さん。
ありがとう。
本当にありがとう。
高三まで言えなかった分を全て込めて。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう・・・・・。
何度言っても言い尽くせません。
ありがとう。
Ⅱ 間違った鬼ごっこ (花嫁のスピーチ 2 ) 帆尊歩 @hosonayumu
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