後悔
またぼろぼろと泣き出す私を見て、坊ちゃんは困ったような顔をした。
「……これは、俺の戒めやねん。お前だけに言うたんとちゃう。やから、そんな泣かんとってよ。話も聞かんと悪かった。何でそんな戻りたい思うんか、教えてくれん?」
懺悔したところで何かが変わるわけでもない。ただ、誰かに聞いて欲しかった。こんなことを話せたんは、多分、坊ちゃんとはもう一生関わらんやろうな、と思ったからやった。
坊ちゃんは私の話が終わるまで聞いてくれた。また「許されるなんて簡単に思うな」と言われるかな、もういっそのこと、そう言ってくれと思ったけれど、坊ちゃんは、意外にも、なんやそんなことか、と呟いた。
「……人間なんて、生きてるだけで罪人みたいなもんやろ」
坊ちゃんはこちらを見ずに言った。私はぱちりと瞬きをする。
「でも」
「お前は、何。そもそも期待に応えられんかった自分が情けない、ダメやと思ってんの?お前は、期待に応えかったん、応えたくなかったん。どっち」
「……期待には、応えたかったよ。けど、私は、ほんまは、乗る電車を自分で決めていきたかった。けど、その結果がこれやねん。私の選択はいっつも間違ってる……そんなんやったら、いっそのこと、いつもみたく従っておけば良かった。そうしたら、みんなの目に映る最期の私は、こんな嫌なヤツじゃなかったはずやのに」
私は、坊ちゃんの言葉を借りるなら、「罪人」に違いなかった。けれど、こうなったのは、そもそも、お母さんやお父さんが電車に乗せたからやろ、という気持ちもある。私を「罪人」とやらにしたのは、父母のせいでもあるやろ、と思うのは、責任転嫁やろうか。
「……けど、私な、こんなになっていうのあれやけど、お母さんやお父さんのこと、許せてない部分もあるねん。許されたいけど、許されてしまったら、私がいなくなってしまう気がする。私は、一生、間違えているんやって、そうやって何もかも呑みこんで生きていかなあかんくなる。……そんな気がするねん」
再び落ち込む私を見て、坊ちゃんは、私の目を見て真っ直ぐに言った。
「一度きりの人生、誰にも間違いなんて言わせんな。間違ったと思ってるなら、これからのお前が正解にしていけばええだけのことやろ」
それは、少し怒っているようでもあって、でもやさしい響きをもって私に届いた。
「これからの、私が…か」
私は、これからの私を正解にできるやろうか。こんな私のままで。言葉にするのは簡単でも、ほんまの意味で「変わる」というのは、そんなに簡単なことじゃない。
「あとな、親もひとりの人間や。誰しも自分の中に正解っちゅうもんがあるやろ。お前が禁忌を犯しても許されたいと願うみたいにな。許すとか、許さへんとかそんな二極端な考え方じゃなくて、そういう相手を「知ろうとする」ことが大事やったんとちゃう。結局、お前も期待してたんやろ。親がお前にそうしたみたいにな」
「……私も、似たもの同士やってんな。そりゃそうか、親子、やもんな」
私が期待しているなんて、今まで考えたこともなかった。けど、思い返すとそうかもしれん、と思う。確かに、今までの私は、知ろうとせんかったかもしれん。私らは、お互いの考えをぶつけ合っていただけで、私はどこか、お父さんのこともお母さんのことも、私の声を聞いてくれん人なんやと、決めつけていた節がある。もしかしたら、私が呑みこまんことで、変わっていた何かがあるかもしれん、とも。
まぁ、そんなこと、今では何も解らんままやけど。
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