サイレン
ぼうっとしてる場合じゃない。泣いてる場合とちゃう。今なら、まだ間に合う。みんなを、救える。
立ち上がった時だった。ただ明るいだけの車内にいくつもの影が、ばらばら、と見えた。今日の天気予報は、雨じゃなかったはずやのに。
―――え。
ひとつ、ふたつ、みっつ。いや、もっとたくさん。空の上をいくつもの電車が飛んでいく。前にも見た光景だった。
―――まだ、二日経ってへんのに。なんで。
私はタブレットを開き、すぐさま、えみちゃんに連絡する。
『どうしたぁん。電話なんてめずらしい』
画面に映るえみちゃんは、呑気に「あなたの晩ごはん」の卵焼きを口に頬張ってもごもごさせていた。
「えみちゃん、今から私の言うこと、よう聞いて。事故が起きてる。はよ、そこから逃げて。私のとこに来て」
『なんも起きてへんよ』
「間に合わんくなる前に、お願い。お願いやから、すぐ電車乗り換えて。お願い……」
必死な私の様子に異変を感じたのか、えみちゃんの表情が真面目なものになる。
『なに、ほんまどうしたん。なんかあったん?』
「えみちゃんが電車から降ろされてしまう……」
『私はここにおるよ。降ろされてないよ。大丈夫やで。どうしたらいい?そっち行こか?』
えみちゃんの確かな言葉に、「ゔん」と大きく頷く。
『わかった。乗り換えるから、ちょっとそこで待ってて。えぇっと……7番線やね。了解、すぐ向かうから』
心配やから、通話を繋いでおいて、と言う前に画面が切れてしまう。
迫り来る闇の向こうに、鬼がいた。幾千もの電車が、空へ放たれて星になる。
もしかしたら、あの中にえみちゃんがおるかもしれやん。
えみちゃん。えみちゃん。えみちゃん……。
悪いことは起きへん。私が絶対に食い止める。あぁ、でも……もう、間に合わんかもしれん。
配られてから一口もつけていない「あなたの晩ご飯」を握りしめる。もう二度と食べられへんかもしれんから、食べらな、と不安を埋めるように必死に口に運んだけれど、全く味がしなかった。
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