泡の中
穏やかな揺れが続いている。なぁ、とえみちゃんの声がした。
「なぁ、なぁってば!」
頬をバチーンと叩かれて、私は「痛ッたぁ!」と飛び起きる。
「そんなとこで寝てたら、学校遅れてまうで。ほら、はよ電車乗ろう」
目の前には制服姿のえみちゃんがいて、私はどうやら、6番線ホームの待合室で眠っていたらしい。
「えみちゃん、や……」
いろんな思いが込み上げてきて、私は泣きそうになる。えみちゃんは、何当たり前のこというてんの、という顔をしていた。
「あなたのお昼ご飯」を食べながら、えみちゃんに変な夢のことを話す。私、謝っても謝りきられへんようなひどいこと言ってもたねんな、なんかごめん、という話をすると、夢の話やろ、と大笑いされた。夢の話なんやけどさ、めっさリアルで怖かってんな。
「でもさぁ、ほんまに遅刻は気ぃつけよ。学校の電車は待ってくれるけど、それ以外やったら大変なことやで。逃したらあかん電車やったらどうするつもりやったん」
お昼ご飯を平らげて、じゃが◯こを囓りながら、えみちゃんが言う。
「まだ逃したらあかん電車とか乗ったことないもん」
ぼりぼり、ぼりぼり。囓る中で、私はなんか大切なことを忘れているような気がして、でもなんや思い出されへんから、多分、今日見た怖い夢の断片とか思い出そうとしているんやと、考えるのをやめた。
「もうすぐ、ばらばらになっちゃうんよな。信じられへん」
タブレットの進路の欄と見て、えみちゃんが淋しそうに笑った。
「乗る電車が違うとさ、もう、あんま会えんくなるやん。そしたらさ、だんだんと、話さんようなってな。線路が二つに分かれてるとこあるやん、あれみたいに、だんだん遠なって、だめになってしまうんやって、お姉ちゃんが言ってた」
「それは恋愛の話やろ?うちらは違うやん」
「けどさ、離れ離れなっても、ずっと友だちでおってな。約束」
えみちゃんが小指を差し出す。私は、えみちゃんの細くてきれいな指に小指をぎゅっと絡ませた。
「うん、約束。一か月に一回、だめやったら半年に一回、それも無理やったら、絶対に一年に一回は会おう。思い出の6番線で集合な。……って、気が早いな、ばらばらになるのん、まだ一年以上先やのに」
私たちは、おなかを抱えて笑った。えみちゃんが、進路決まってないんやったら、私と同じ薬剤師を目指そう、とか言ってくるから、それはいくら何でも無理や、いや、今からならまだ間に合うとかなんとか、あほなことを言い合った。
チャイムが鳴る。この時間が、永遠に続けばいいのに、と思った。
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