トンネルの向こう側
トンネルの中はとても静かで、私はこの世に光というものが存在することを忘れそうになる。明かりはひとつもなく、元来た道は、襖に爪楊枝で穴を開けたみたいに小さい。
どのくらい歩いてきたんか、もうわからん。この果てしない闇に終わりはあるんやろうか、と途方に暮れる。
もし、この色も音もない世界が延々に続いていたとしたら。私はどうなってしまうんやろう。私は、「電車を降りた人」にカウントされるんやろうか。もう、されてるかもしれやんけど。
タブレットは相変わらず「圏外」になっていて、私の居場所は鬼がきたところで止まっていた。
えみちゃん、ごめんな。あんなこと言って。
お父さん、お母さん、ごめんな。ひどいこと言って。半分はほんまに思ってたことやけど、多分それは、絶対に言ったらあかんことやった。私が勝手に諦めて、何も言わんから、いっつも中途半端やから、あかんねんな。わかってる。
えみちゃんのことが、羨ましかっただけやねん。私、ほんまに空っぽで何にもないから。
みんなに痛いとこつかれたから、つい毒づいてしまった。謝っても謝りきられへん。もう、ほんまに謝られへんけど。
ぴちゃ、と水に触れたような感覚がつま先に走る。水たまり?と思った時には、もう片方の足も進めていて、次の瞬間には、全身が水の中だった。
慌てて水を掻く。伸ばした手は空に浮かぶ月を掴むように、むなしい。あらゆる隙間から水が体内に流れ込んでくる。這い上がろうとしても、身体が鉛のように重く、ひたすら下へ下へと沈んでいくのがわかった。
息ができない。でも、不思議と苦しくはなかった。電車を降りることが、こんなふうに穏やかなんやったら、ちょっとは救われた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます