トンネルの向こう側



 トンネルの中はとても静かで、私はこの世に光というものが存在することを忘れそうになる。明かりはひとつもなく、元来た道は、襖に爪楊枝で穴を開けたみたいに小さい。

 どのくらい歩いてきたんか、もうわからん。この果てしない闇に終わりはあるんやろうか、と途方に暮れる。

 もし、この色も音もない世界が延々に続いていたとしたら。私はどうなってしまうんやろう。私は、「電車を降りた人」にカウントされるんやろうか。もう、されてるかもしれやんけど。

 タブレットは相変わらず「圏外」になっていて、私の居場所は鬼がきたところで止まっていた。

 えみちゃん、ごめんな。あんなこと言って。

 お父さん、お母さん、ごめんな。ひどいこと言って。半分はほんまに思ってたことやけど、多分それは、絶対に言ったらあかんことやった。私が勝手に諦めて、何も言わんから、いっつも中途半端やから、あかんねんな。わかってる。

 えみちゃんのことが、羨ましかっただけやねん。私、ほんまに空っぽで何にもないから。

 みんなに痛いとこつかれたから、つい毒づいてしまった。謝っても謝りきられへん。もう、ほんまに謝られへんけど。

 ぴちゃ、と水に触れたような感覚がつま先に走る。水たまり?と思った時には、もう片方の足も進めていて、次の瞬間には、全身が水の中だった。

 慌てて水を掻く。伸ばした手は空に浮かぶ月を掴むように、むなしい。あらゆる隙間から水が体内に流れ込んでくる。這い上がろうとしても、身体が鉛のように重く、ひたすら下へ下へと沈んでいくのがわかった。

 息ができない。でも、不思議と苦しくはなかった。電車を降りることが、こんなふうに穏やかなんやったら、ちょっとは救われた気がした。



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