鬼の涙
車庫
ガチャン、と連結部が何かにぶつかる音がして私は目を覚ました。修理屋さんの足音が遠ざかっていくのを確認して、私は毛布から顔を出す。
「え……、なに、これ…」
来た道から扇状に線路が分かれている。その延長には大きなたくさんのトンネルがあって、その中には壊れた電車たちが一両ずつきっちり収まっていた。数年前、鬼が掻っ攫っていった電車も、たくさん。ほんまに、たくさんの電車があった。
そして、私の乗っていた電車がぶつかったのは、トンネルの奥のあるはずのない線路を塞ぐ大きなバッテンの看板やった。でも、バッテンの向こう側にも確かに、線路は続いている。
周りに人がいないのを確認して、私は恐る恐る電車を降りた。タブレットは圏外のまま。多分何も起こってないから、今のところは、降りた人にもカウントされていないはず。
「お前、そこで何やってん?」
不意に背後から低い声がして、私はバッテンの向こう側へ歩みかけた足を止める。体のあらゆる先端から血の気がひいていくのを感じていた。
見つかった。見つかってもた。どないしよう。
「ご、ごめんなさい。迷子になっちゃって」
今の私は、うまく笑えているやろうか。そんなこととを考えながら振り返った先には、意外にも中学生くらいの男の子が一人おるだけやった。身長は私より少し高いくらい。白いTシャツにデニムの短パンをはいていて、これで釣竿をもっていたら完璧な「坊ちゃん」やったのになぁ、と思ったほど。
「ここはお前みたいな子どもが来たらあかん場所。早よ帰れ」
その鋭い声と目つきに一瞬怯みそうになったけど、目の前に立っているのは私と同じくらいの小さな少年だった。
「え、あんたやって子どもやん」
「俺は、……」
「まぁ私も迷い込んだだけやし、帰るわ!」
横を通り過ぎる時、待って、と私の手首を掴もうとした少年の手を振り払う。
「あんたも見つからんうちに帰りよ。じゃあね!」
バッテンのハードルを超えて、走り出す。少年は何か言いかけたが、追ってくることはなかった。
❃ ❃ ❃
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