燃える影



 みんな、いなくなればいい。

 ぐうぐうなるお腹の音が周りに聞こえんように、私は布団にくるまる。あれから父母から連絡はないし、えみちゃんとは喧嘩で会われへんし、メール送っても既読もつかへん。もうブロックされてもたかもしれん。明日も、明後日も「わたしのごはん」が届かんくて、えみちゃんとも会えんくて、誕生日が来てしまったらどないしよう。


 ドゴンッ。


 そんな泣きそうな私の涙を引っ込めるように、あの音は聞こえた。悲しみは一気に恐怖へと変わり、私は手すりに捕まって窓の外を見た。

 電車がものすごい角度で空を飛んでいく。それも、一両じゃない。一本丸ごと。繋いでいる電車全てが、一気に空に舞っていった。一本だけじゃない。二本、三本、四本と、次第に数は増えていく。遠くの方が赤く燃えていた。その燃える炎の中に、揺らめくあいつがいた。


 ―――鬼や。


 ピロリンピロリンピロリンピロリン。


 みんなのタブレットのアラームが一斉に鳴り出す。駅につかないまま止まった電車。警告、警告。逃げてください。騒ぎ出す人々。なんでこの時まで、忘れていたんやろうと思った。

 遠くの方におった鬼が、だんだん近づいてくる。カラカラ、カラカラ。恐怖の音が、水を纏って近づいてくる。

 私の番やと思った。他人事やなく、今度は私の番なんやと。

 遠くにおったと思った鬼の足は、気づけば目の前にあった。透明で、私の視界をゆらゆらさせた。

 棒が振り上げられて、私は神様……!と祈った。次の瞬間、ドゴンッと大きな音と揺れが響いて、私の意識は遠のいた。

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