第41話 小説賞に応募してみようかな……<6>
ニセ独身者となって、「小説が書けるようになるためのきっかけ」と思い書き始めた現代詩でしたが、なんとまあ、私には才能があったみたいです。
一度も会ったことのない女流詩人の方から、「私はいままでに一度も弟子というものを持ったことがないが、ぜひにあなたを指導したい」とのお手紙をいただいたことがありました。
地元テレビ放送局のプロヂューサーで、これから活躍しそうな人を探し出すということをしている方からも、「あなたが詩人として活躍するためのお手伝いをしたい」と、突然の電話をいただいたこともあります。
でも、これらのお誘いを「将来は、小説を書きたいので」と断りました。
お二人とも有名人でしたから、その後亡くなられた時は、新聞にお写真と経歴が載りました。
それを眺めて、「あの時は、なんとまあ、若かったとはいえ、偉そうなことを言ってしまって。それに、もったいないことをしてしまったかな」と、少し悔やみました。
でも、やはり私に詩人は無理だったような……。
詩は詩集に纏めてこそ認められる世界です。
でも、これが自費出版というものなので、1冊の詩集をだすのに、当時でも最低100万円はかかったのではないかしら。
自費出版にお金がかかる。
詩人を目指さなかったのには、これが一番の理由だったかな。
「そろそろ、詩集をだされませんか?」って、そんなこと、貧乏で平凡な主婦に簡単に言わないでください。(笑)
それもあって、詩というものは、一篇単独だけで賞に応募する場所や機会というものが、めったにありません。
それでも私の住む県の主催で一度だけ文学祭というものがあって、短歌や俳句とともに現代詩の募集もあったのです。
詩を一篇応募したら、最優秀の県知事賞に輝きました。
嬉しくて、新調したスーツを着て会場の最前列に座りました。
表彰式には受賞作の講評と講演のために、ご高名な初老の男性詩人がゲストとして招待されていました。
そして表彰式も終わって、その方の受賞作品への講評が始まったのですが。
その人は開口一番に言ったのですよ。
『県知事賞の作品については、私からは何も言うことはないので、この詩以外の入選作品について思うところを述べていきたいと思います』
この男性詩人の言葉に、恥ずかしさと怒りで全身の血が引きました。
それはまあ、私の詩は秘めた恋心をテーマにしたものではあったのですが、それにしてもあまりにも酷い仕打ちではありませんか。
「主婦は、幸せな家庭と可愛い子どもを題材にして書いておればよい」と、きっとご高齢の男性詩人はそういう考えをお持ちだったのでしょう。
でも、文学作品にそんな個人的価値観を押し付けるな!
ほんと、いま思い出しても腹が立つ!
詩って、お金のかかる自費出版の世界でもあるのですが、詩人としての思惑と思惑がぶつかって、お互いに一歩も引かぬ喧嘩が多発する世界でもあるのです。
やはり、私には詩人は無理でした……。
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