第14話 元毒舌系によるイメージチェンジ講座
「──はい、どうも! ライブエアー所属、3期生の黒羽詩織よ!!! 今日は!!! なんと!!! ゲストを呼んでます!!!!!!」
うるさいなこいつ。
相変わらずの音割れボイスに苦笑いしながら、俺は黒羽さんの目配せに従って声を出す。
「皆さんこんにちは。24じライブ所属、未だに毒舌系を名乗りたい炎上芸人、田中・エリオット・毒沼です」
「そんな挨拶ある!?!?」
「事実しか言ってないので大丈夫です」
「恐ろしく物騒な歴史……!! 私よりVTuber歴浅いのに濃さで負けてる気がするのムカツクわ!!」
黒羽さんは開始早々吠える。
ある程度分別を付けるが、基本的には普段黒羽さんと話す時のような口調で問題ない……と思う。
炎上を回避する手段は多々あるが、ここで最も気をつけなければいけないところは『過度に馴れ馴れしくしない』だ。
まあ、あれだ。推してるVTuberが良く分からんやつと内輪ノリで会話してたらムカツクしモヤモヤすると思う。
ガチ恋勢はそこから『あれ、こいつらデキてるんじゃ……』みたいな思考に発展し、燃える。盛大に燃える。
だからこそ、黒羽さんと仲良しー、みたいな雰囲気を醸し出してはいけないのだ。
……いや、なぜか異常に会話のノリが合うだけで俺と黒羽さん、出会ってからそんな時間経ってないし、そこまでの会話を重ねているわけではない。
ただ、間違いなく黒羽さんとは戦友だと言えるだろう。
調子乗る気がするから本人には言わないが。
「さあ、今回の企画は──こちら!!!」
黒羽さんがドドンと全身を使ってアピールする。
恐らく画面にはタイトルが表示されていることだろう。
それに合わせて俺は黒羽さんの音割れボイスに負けぬよう声を張り上げた。
「炎上芸人による、イメージチェンジ講座!! えー、不本意にバズった俺がイメージチェンジ方法について教えたいと思います。黒羽さんも一緒に炎上芸人になりましょう」
「嫌よ!? 私は清廉潔白で王道のつよつよVTuberなの。炎上とはかけ離れた場所にいるわ!」
「そう言うと思いましたよ」
俺は画面の表示を変えるべく黒羽さんと同様に体全身を使ってアピールする。
「キャラ性というのはとても大事なものです。アイデンティティと言えるでしょう。自分を強く持っている方は総じて強いです。黒羽さんもキャラ性がべらぼうに濃いせいで今の地位にいますからね」
「ところどころ悪意がある気がするんだけど!!」
「気のせいです。えー、ですが同じキャラ性でいることのデメリットがあります。それは、飽きが来るという点です。現に、ほら、これを見てください」
俺は画面上に持ち込んだデータを表示した。
そこにはとあるスレッドの一部が書き込まれている。
『面白いんだけど同じことばっかだと飽きるんだよな』
『またこいつ同じことしてんやんw』
『ネタ切れしてて草』
『もうええてw』
『新鮮なものが欲しいな』
すると、黒羽さんはわなわなと震え始める。
「まさかこれって私の──」
「いや、俺のっす」
「お前のかよ!!!!!!!!!!」
キーンと耳が鳴る。素でツッコんでるせいで音量ヤバすぎるだろ。編集で何とかすると思うけど限度があるわ!!
「まあ、音割れしてる人はさておき、このように同じことを繰り返していると飽きられます。そこで!! 必要なのが炎上……じゃなくて、イメージチェンジです!!! そして生まれるのがギャップ萌えという利点!!」
「なるほどね。つまり──完璧な私がもっと完璧になるってことね」
「あーーーー、ハイ」
「適当!!!!!」
なんか黒羽さんがツッコミ役になってる気がする。まあ、今のところは突飛な発言してないし。
「ですが──高みを目指している黒羽さんなら、必要だと思いませんか?」
「……そうね。常に自分を壊して、新しくする。それができなければ、いずれ限界が来るわ。確かに最近の私はキャラ性に頼ってる。だから……教えてちょうだい田中!! 私が強くなれる方法を!!」
「ジャンプ主人公のノリ」
最後の一文以外は感動したのにこの人は……。
だが、黒羽さんらしい答えだと思った。
俺一人では無理だと思っていたことでも、黒羽さんが言うと不思議と挑戦してみたくなる。
彼女の上昇志向に影響されているのだろうか。
ネタ的扱いをしていても、俺は黒羽さんを尊敬している。
彼女とならどこへでもいけるんじゃないか、と。
そう、思えた。
「田中ァァ!! いつものように教えてちょうだい!!!」
「おいこら黒羽ァァァ!! カットだカット!!」
──余計なことさえ言わなければな……。
ーーーー
完結です。
めちゃくちゃ遅れました……。
裏垢でリスナーやメンバーの愛を語っていた毒舌系Vtuber、バレて無事悶絶しまくる 恋狸 @yaera
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