3.違和感と狂気、そして断絶


「短歌の公募に挑戦してみようと思う」



 そんなふうに、あの人がいろいろな公募へ挑戦するその姿勢は、日々をのほほんと過ごすズボラな私にとって見習うべきところでした。



 ある日、あの人は「熱心な読者がついた」と心を躍らせていました。あの人の小説がどんどん誰かに読まれること。私も自分のことにように嬉しくなると同時に、小説をどんどん書かなきゃなと腕をまくっている時期でした。



 違和感を覚え始めたのは、カクヨムのコメント欄に「」のが付くようになってからでした。



 当時、私はヨム専門でアカウントも持っておらず、頻繁にカクヨムへアクセスしていたわけではないのですが、早朝(と言ってもほぼ深夜)に、ちょっと眠れなくて小説でも読もうと思い、あの人のページへアクセスした時でした。



 一瞬、夢からまだ醒めていないのかな……? と思うほど、絶句したことを覚えています。



「……何。このコメント……?」



 それは小説への感想でもなんでもなく、「あなたの短歌のせいで私は傷ついた」みたいな感じで綴られた文章でした。一体なんだろうと思っていたら、朝にはそのコメントが煙のようにふっと消えていて、本当に夢だったのかな? と思うほどでした。



 あの人は公募の短歌に挑戦するために、練習用の短歌をカクヨムにアップしていました。聞くところによると、読者様がつけた短歌のコメントに対して、あの人がアップした世界観に沿って返歌をした、というだけでした。



 それをどうやら、「」が現実世界へ持ち込んでしまい、自分の感情を勝手に燃え上がらせ、「私だけを見て」というニュアンスのコメントをひたすらに送り付けていたのです。


 あの人は自分の性別をカクヨム内で明言したことはないのですが、どうやら、あの人が作った詩や短歌は「」に向けた恋のメッセージであると思い込んでいたようです。



「私は男性でも女性でもありませんし、私の作る創作は特定の方へ向けたメッセージではありません。また、私が作り上げる世界は、フィクションです。現実と幻想は違います」



 あの人はそのことを丁寧に「」に伝えたようです。





 しかし、それが悪夢の始まりでした。





 そこからは、ただの一方的で執拗な攻撃です。

 深夜に何度も何度も送り付けられるコメント。書いては消し、消しては書いて、カクヨムからの通知が鳴りやまない日々。


 まるで、どこまでも追ってくる生きた悪霊のようです。



 カクヨムでは投稿者がコメントを消しても、設定しているメールアドレスには全文が残るため、何が書かれたか、何通のコメントを送っているのかは作者だけが把握できます。「」はそれをわかった上で送っているのか、「今朝、送ったコメントに対して、まだ返信がありません」というコメントも平気で送ってきます。



 話を聞いているだけで、カクヨムを眺めているだけで、あの人の心中を想像するだけで、私もノイローゼになりそうです。



 当の本人は、更に想像を絶するストレスだったと、今では思います。

 あの人はさすがにうんざりして、アップしていた短歌を非表示にしました。




「これ以上、作品を汚さないでほしい。言いたいことがあるなら、直接ここへ」

 と、あの人はツイッターのアカウントを提示していました。




 それからはあの人と「」との間で、ツイッターでのやり取りが始まったようです。


 私はただ、あの人から状況を断片的に聞いていただけでしたが、



 ・ツイッターのDMに何度も何度も送られてくる、謎のメッセージ。

 ・あの人がイイネを押したフォロワー様のつぶやきに対して、過敏に反応して、フォロワーさんを貶めるような呟き。更にそのことを逐一、DMで報告してくる。

 ・あの人の、2年も前ものつぶやきに対していいねを押す行動。

 ・挙句の果てには、あの人が書いた小説やエッセイを切り貼りして、ツイッターのDMへ送って、自分勝手で意味不明な短編小説を送り付ける。



 ツイッターだけではありません。カクヨムでも、



 ・短歌が非表示になったので、まったく関係のない短編小説にまで意味不明なコメントを送り、PVや通知を荒らす。

 ・あの人のアカウントや作品のフォロー、レビューを一旦、取り消して、またフォロー・レビューをするという不可解な行動。





 もはや、狂気です。正直、ぞっとしました。




 ここまで被害にあって、ようやくあの人は「限界だ……」と感じたのでしょう。

 ついに、「」を完全にブロックしたのです。






 そして――。







 カクヨムにアップしていた、すべての物語を、あの人は手放したのです。








 私にとって、それが一番の、最も耐え難い『狂気』でした……。





 ※一番重要なところですが、あの人から間接的に聞いた断片的な情報なので、詳しいことは書けません。


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