2.私とあの人の関係


 あの人は、私の創作の大切な仲間でした。同志、と言ってもいいかもしれません。私はどちらかというと、小説ではなく詩を書くことが好きなのですが、私が作った詩の世界をベースとして、あの人は小説の世界へ落とし込んで物語を紡いでいました。


『詩先小説』とあの人は名付けていましたが、私の想像した世界観を壊すことなく小説の世界へ築き上げるその手腕は、とても眉唾物でした。


 私とあの人は、競い合うように公募へ挑戦していました。



「今回は私の作品がもう一歩だった!」

「二人とも一次選考を通ったね!」



 そんな感じで、二人で創作の世界を楽しんでいました。




 私たちは北海道に住んでいます。あの人も私と近い場所に住んでいて、リアルでも最も近い距離で小説の読み合いができる関係でもありました。


 恋人という関係とは、全く違います。私もあの人も、それぞれの暮らしがあり、つながりがあり、実際に会うということはほとんどありませんでした。SNSの交流がほとんどです。私はあの人のことをとても尊敬していて、あの人の創作活動に刺激を受け、作り上げられた物語がとても大好きでした。


 私はつい最近まで、Web上に小説や詩を載せたことがありませんでした。元々、公募勢であり、集英社様のコバルト文庫短編小説に応募して、大好きな青木裕子先生の講評が欲しいという不純な動機で挑戦し始めたことが、小説を本格的に書き始めたきっかけです。


 私がそのことを伝えると、「へぇ。そんな公募があるんだ。じゃあ自分も」という軽い感じであの人も応募し始めました。お互い、小説の原案を交換して、それぞれの小説を書き上げるなんてこともして、楽しく創作をしていました。


 私の方が最初に公募へ挑戦していたのに、三回目くらいにさらっと『もう一歩』にあの人の名前が載った時には、ちょっとした嫉妬感もありました。今ではもう二度と取り戻せない感情ですが。


 あの人は公募に挑戦した小説を、ここカクヨムにアップしていました。私はWeb小説に興味をあまり持っていませんでしたが、「カクヨムで、澪の詩の世界を広げて描いた小説が公式レビューをもらったよ!」という連絡を受けたときは、素直にすごいなと思うと同時に、片鱗と言え、私の描いた世界が誰かに認められたんだと、とても感銘を受けました。


 これが創作の醍醐味。私も自分でゼロから作り上げた世界を誰かに発信したいと、強く思うようになりました。




 けれど、その小説はカクヨムには、もうありません。その人自身がその小説含めてすべてを削除してしまったからです。




 事の発端は、2022年の夏。

 私が長編小説の公募に挑戦しようか、しないか、迷っていた頃までさかのぼります。


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