第35話 双星
俺の目の前には、黒のスーツと赤いネクタイに身を包んだペリヌーンがジュラを庇う様に立っていた。
「一応聞いといてやろう。何故そちら側に味方する?酷い扱いをされていたんじゃないのか。どうなんだペアランタム」
俺は迷いの無い目で俺を見つめるペアライトに問い掛ける。
『ペリドット……いや、勇者さん。改めて自己紹介しますね。私の本当の名前はネブラン。[星雲]のネブランです』
『ネブラン!何を勇者と仲良く喋っているの!早くサッちゃんの仇を……』
『黙りなさい』
すると、パワーアップしたジュラよりも濃い魔力がネブランから放たれ、ジュラを黙らせる。
「おお、ネブラン。中々やるじゃないか。それで、俺に話した事は全部嘘だって事でいいのか?結局は邪神側だって事でいいんだな?」
『やっと名前を呼んでくれましたね。それと私の生い立ちに嘘はありませんよ。ペリドットも私の名前です。ネブランは使徒になってから与えられた名前です。邪神によってね……。ええ、私は邪神側に立ちますよ。勇者さん』
そうか……。それだけ聞ければ十分だな。
「そう言うと思ったよ。だけど覚悟するんだな。じゃあいくぞネブラン。
俺の聖剣スマイルから、特大の魔力で形成された刃が放たれる。
『はは。容赦ないっすね、勇者さん。
ネブランの前に巨大なルーレット盤が現れる。
そのルーレット盤には"成"と"否"に分かれたマス目が有り、ルーレット盤に付いてる針が回転し出した。
「はっ!そんな暇があるのか!もう俺の攻撃は目の前だぞ!」
俺の放った破断剣がネブランとジュラに当たると言ったところで、焦ったネブランがルーレット盤を動かして破断剣を防ぎ、対消滅してしまった。
『………………作戦通りですね』
「嘘つけお前!絶対違うよね!そう言う使い方じゃないよね!それならルーレット盤である必要ないもんね!」
ネブランは俺から目を逸らし、虚空を見つめている。
『ネブラン!いつまで遊んでるの!貴方が殺らないなら私が殺る!
ジュラが禍々しい紫色の小さな隕石を生み出すと、それを地面に撃ち込んだ。
すると撃ち込まれた場所が毒の沼地に変わり、更にそれがどんどんと広がっていった。
『やれやれ。今日は随分と機嫌が悪いっすねジュラ。なら俺も真面目にやりますか。
ネブランがパチンと指を鳴らすと、紫色の雲が空全体に生成された。
クソ!下も上も紫で目がおかしくなるぜ。
「あの雲は何なんだ!いや、まずは毒の対処が先か……。
急速に広がっていた毒の沼地は全て浄化され、元の地面に戻っていた。
『勇者って、何でも出来るのね。でも残念。結構な数のエルフが毒にかかっちゃったわよ?あははは!サッちゃんも喜ぶわね!』
俺は辺りを見渡すと、エルフの戦士達や逃げ遅れた者が苦しそうにのたうち回っていた。
「く、くそ!まだこんなに残っていたか!待ってろ、今治して……クッ!ネブラン!邪魔するな!」
『悪いっすね勇者さん。俺も一応悪役なんすよ。だから邪魔させて貰うっす。
上空に展開された紫雲から、紫電が俺に向かって絶え間なく降り注ぐ。
これはまるで龍の群れの様だな。
てか、コイツ等厄介すぎるな。
「やめろネブラン!エルフ達に当たるだろうが!」
俺は紫電を避けながら、エルフ達に防御魔法をかけようとしたが、既にヤモッさんの煙が皆んなを守っていた。
『ふぅー。ファルケン!お前はその二人の対処だけに集中しろ!毒は俺が治す!早く倒しちまうんだな』
ヤ、ヤモッさん!頼りになりすぎるぜ!
「ありがとうヤモッさん!これで心置きなく戦える!行くぞネブラン!ジュラ!"換装"勇者シリーズ [
俺の鎧が銀色に染まっていく。
勇者の紋章は金色に変わり、銀色になった勇者の鎧と合わさって、程よい色彩になっている。
『本当に勇者さんは多芸っすね。それでその色が変わった鎧の効果を教えてくれたりは……』
「ああ、勿論教えてやるよ。身を持ってな![天極到来]!来い!三万世界!」
俺の魔力と共鳴した鎧が擬似空間を創り出し、俺とネブランとジュラを取り込んだ。
この空間には数多の化け物達が存在していた。
あらゆる世界から集められた異形達だ。
だが、彼等が闘いに手を出す事はない。
そう、彼等はいつもただ見ているだけの存在だ。
"ケケ、久しぶりの来客だな"
"誰だ?リーンザイルか?"
"イヤチガウ タブンデシノホウダ"
"ああ、あのガキか"
"相手は誰だ?何だ雑魚か"
"酒のつまみにもならねぇな"
相変わらずうるせぇ野郎共だ。
『ゆ、勇者さん。ここは何処ですか?こ、この化け物達は一体……』
『ネブラン!全員殺せば関係ないでしょ!さっさと殺るよ!
ジュラが己の魔力を暴走させ、レシュノルティアを一撃で吹き飛ばせる程の爆発を生み出した。
「く、くそ!短気な奴だな!
『ちょ!ジュラ!俺まで巻き込む気っすか!
ジュラを中心に辺り一面が眩い光に包まれ、キノコ雲が出来る程の爆発がこの場を支配した。
爆発の衝撃が止むと、爆煙が凄い勢いで擬似空間に吸収された。
『はぁはぁ……。……あははは!これでみんな居なくなった!居なくなっ……た?う、嘘……。な、なんで……』
視界がクリアになると、異形達は変わらぬ姿で酒盛りを継続していた。
「気持ちは分かるよ。コイツ等は破壊不能のオブジェクトだと思った方がいいぞー。魔力の無駄使いだからな。俺も昔は躍起になってぶっ倒そうと思ったもんだ」
『ふ、ふざけ……!キャッ!』
俺は隙だらけのジュラのお腹に拳を叩き込み、遥か彼方に吹き飛ばす。
『あ、あちゃー。何処まで行っちゃったんですかあれ。それと、勇者さん。そろそろこの空間について説明して頂けたら……』
何だお前は!さっきから質問ばっかで!
闘う気がないのか!
「この空間はな……訓練所だ!この空間ではどんな傷を負っても死ぬ事がない、今の俺にはうってつけの場所だよ。お前等には少し痛い目にあってもらうからな」
懐かしい……。
師匠に虐められた苦い記憶が……って!危ねえ!
『痛い目にはあいたく無いので、こちらから行かせて頂くっす!
さっきと同じルーレット盤が現れ、針が回転していく。
「それは破壊できる事はさっきバレただろうが!
俺も先程と同じ攻撃を放ち、対消滅を狙うが、俺の破断剣はルーレット盤をそのまま通過してしまった。
『悪いっすね勇者さん!雲は気まぐれなんすよ!そろそろルーレットが止まるっすよ!ドキドキっすね!』
一体何の効果があるんだ、このルーレット盤には。
針が段々とゆっくりになっていき"成"のマス目で止まった。
そしてルーレット盤は光り輝いたかと思うと、すぐさま煙状になり、ネブランに取り込まれて行った。
「特段変わった様には見えないが……。いや、油断せずに行こうか。
この鎧の時にしか放てない、俺の不可視の魔刃が音速でネブランを襲う。
ネブランは反応すら出来ずに、胴が下半身から切り離されてずり落ちた。
いや、こんな呆気なく終わる筈がない。
一体何を企んで……はっ!奴は何処に行った!
一瞬目を離した隙にネブランの身体は消失していた。
『フフフ。ダメっすよ勇者さん。戦闘中に敵から目を離しちゃ』
いつの間にか俺の背後に周り、ネブランが肩を組んで来た。
「ククククク……。お前程度の奴に説教されるとは思わなかったよ。よし第二ラウンドだな。是非俺を楽しませてくれ」
『言いますね勇者さん。これでも俺は使徒の中で最強なんですよ?それじゃあ行かせて頂きます。モード[雲神]!』
ネブランの周りに霧が発生し、その姿を隠していく。
「来いネブラン!お前に世界の広さを教えてやる!
俺の膨大な魔力がこもった剣の一振りが、全ての霧を晴らしていく。
さぁ覚悟しろよ!
世界の半分をくれるって言うから貰ってみた 一日一話 @ogre0921
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。世界の半分をくれるって言うから貰ってみたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます