第34話 [星獣]サターン
[創星]のジュラから、怒りの真相が語られ出した。
『私は、祭りと言う物を初めて体験した。私はとても満足していた。美味しい野菜の揚げ物……。鳥の唐揚げ……。素晴らしかった……。だけど……。だけど……』
ジュラの声は震え、今にも泣きそうだった。
「な、何があったと言うのだ!それは国を滅ぼす程の事なのか!」
俺の問いに、俯いていたジュラは意を決した様に叫び出した。
『……むしだけは……。虫だけは。虫だけは無理なのー!!何あの丸っとした芋虫は!何なのあの蟻の揚げたやつは!何なのーー!あのカマキリのハサミだけ食べてるのはー!あのバッタは何なのよー!!』
ジュラ……お前……。
『な、何よ魔族!あんなに美味しいのに!馬鹿にするんじゃないわよ!』
『そ、そうですー!フランシェビートルを食べてから言って下さーい!プンプン』
だ、黙れ!魔法も使えないプリンセス共!
「ジュラ……。お前の気持ちはよく分かる。俺と一緒にこの国を滅ぼ……じゃなかった。お前の気持ちはよく分かるが、こんなやり方はダメだろう!料理には料理で対抗するのが、料理人としての矜持だろうが!」
何故、そんな事も分からないんだ!ジュラ!
『……私は料理人じゃない。だから私の魔法でこの国を料理する。落ちて……。
ジュラが上空に出現させたバカでかい魔法陣から、小型の龍の形をした隕石を、何百何千と降らせてきた。
「ば、馬鹿野郎!この綺麗な街を破壊させてたまるか!
俺の防御結界がドーム状に広がり、レシュノルティアの街を覆っていく。
隕石は結界に当たって砕けている様だ。
『ふ、ふん!勇者の手にかかればこんなものよ!早く帰りなさい魔族!』
『お、お姉ちゃん。あんまり怒らせたらコッチに来るかも……キャア!』
ど、どうしたララノア!
ララノアの叫び声に反応して振り向くと、いつの間にか二人の元へ移動していたジュラが、持ち前の鋭い尻尾でララノアを刺そうとしていた。
『……さっきからうるさい。黙らせてあげる』
や、やめろジュラ!く、くそ!間に合うか!?
『
『
『
突如として、ララノアとミーリエルの前に薔薇の防御結界が展開された。
だ、誰だお前等は!
『だれ?邪魔しないで』
尻尾を弾かれたジュラはとても不機嫌になっている。
『ナ、ナイスよ!薔薇兄弟!親衛隊としての務めを果たすのよ!
『あ、ありがとうですー!怖かったですー!』
どうやらプリンセス共の護衛みたいだな。
ふぅ、危ないところだったな。
『ささ、姫様達はお退がり下され』
『この魔族には我等が誅を降しますゆえ』
『今度こそ姫様達をお守りするのだ!』
流石は魔法に精通したエルフ達だ……。
守られるだけの存在ではない様だな。
『邪魔するなら、お前達から星にしてやる。
ジュラの足元に出現した魔法陣から、黒い蠍が現れた。
その体長は五メートルを超えており、身体の表面は岩で覆われている様だ。
『ふん!少しはやりそうだな。来い!』
『ええ、久しぶりに本気を出せそうです』
『クロセル!ブルータス!構えろ!来る!』
いいぞ行け!エルフの実力を見させて貰うぞ!
『サッちゃん……。遠くへ吹き飛ばしちゃって。
黒い蠍からとても強力な波動が放たれた。
『こんなものが効くわけ……うわぁぉ!』
『クロセル!よくも……ひょげぇぇ!』
『ブルータス!くそ!白薔薇の……うひょーい』
キラーン。
「…………………」
よ、よし!俺の出番だな!
『サッちゃんはいい子。残りのエルフも飛ばしちゃっていいよ』
や、やらせるか!
「好き勝手やりやがって!
俺の足元に出現した魔法陣から、葉巻を咥えた、おっさん顔の人面犬が召喚された。
「ふぅー。なんだファルケン。俺を呼ぶなんて珍しいな。ピンチか?」
「すまない、ヤモッさん!あの蠍が中々厄介な能力を使うんだ!全員の避難が終わるまで、皆んなを守ってくれ!」
祭りの会場にはまだ避難していないエルフ達が大勢残っていた。
『キャー!なんですかこの犬さんは!かわいいですー!』
『そ、そうね。ぶさ可愛いってやつね!勇者!この犬は貰っていくわね!』
自由か!
「おいおい、お嬢ちゃん達……。俺に惚れると火傷するぜ?」
キャー!ヤモッさん、カッコいい!
「ミーリエル!ララノア!ヤモッさんから離れるなよ!」
俺はプリンセス共の返事を背中で聞きながら、黒い蠍とジュラに特攻して行った。
『サッちゃん!吹き飛ばしちゃって!』
黒い蠍から先程とは比べ物にならない程の重量波が見境なく発射された。
「ふぅー。なるほどな……。確かにコイツは厄介だなファルケン。だがな、俺には効かないぜ。
ヤモッさんの能力一つ、ハードボイルドは大抵の攻撃なら無効化してしまう、とても有能な能力だ。
ヤモッさんの吸ってる葉巻から出た煙が、エルフ達一人一人に纏まり付いた。
纏まり付いた煙が卵の殻の様になり、重力波を受けそうになっていた大勢のエルフ達を間一髪で救っていく。
「流石はヤモッさんだ。次は俺の番だ!とりあえずお前は帰れ!
高位の強化魔法が俺の身体を包んでいく。
俺は高速で黒い蠍に近づいていった。
『何なのあの犬!サッちゃん!勇者も吹き飛ばしちゃって!』
ふっ。馬鹿の一つ覚えか。
俺は余裕を持って重量波をかわし、蠍の背後に回った。
俺を見失った蠍の尻尾を掴み、空高くへと放り投げた。
俺も瞬時に同じ位置まで跳躍し、追撃の拳の連打を加えようとしたが、黒い蠍の表面が真っ赤に染まり、魔力が暴走したような荒々しい重量波が俺を襲った。
『サッちゃんは殺らせない!
クソ!油断した!この距離は間に合わない!
ジュラが蠍の攻撃に合わせて、下から赤い魔力光線を放ってくる。
「ふぅー。甘ぇんだよ小娘共。
キャー!ヤモッさん!愛してる!
ヤモッさんのハードボイルドが間一髪で蠍とジュラの攻撃を打ち消してくれた。
「この好機を逃すわけには行かない!
俺の目にも止まらぬ拳の連打が、蠍の表面を覆っていた岩を全て砕き、蠍を凄い勢いで地上に落下させた。
地面にヒビが入る程の衝撃で落下した蠍は、もう動く気配はなかった。
『サ、サッちゃん……。起きて……。……ゆ、許さない……!皆んな殺す!
怒りと悲しみに染まったジュラが呪文を唱えると、首に掛けていた星形のネックレスが光輝やいた。
光が止むとそこには、変わらない青い肌に、黒の邪紋が身体中に浮き出たジュラが立っていた。
先程とは比べ物にならない程の邪気と魔力を内包しているのがビリビリと伝わって来る。
「お前等使徒にも、悲しむ気持ちが残っているのか。なら何故、簡単に国を滅ぼすなんて真似が出来るんだ!」
『黙れ!全ては邪神様の御心のままによ!邪神様に従っていれば全てが上手く行くの!勇者!……サッちゃんの仇!死ね!
「バ、バカヤロー!こんな所でそんな魔法を使うな!
ダメだ!間に合わ……
「ふぅー……たくっ、暫く会わない内に情けなくなったなファルケン。
ヤ、ヤモッさん!
ヤモッさんの葉巻から出ていた煙がいつの間にかジュラを覆い、魔法の発動を妨害していた。
「た、助かったぜヤモッさん!来い![聖剣召喚』スマイル!」
俺の手に、相棒の聖剣が握られる。
『何なのよさっきから!お前から殺してやる!|[星剣召喚]ザ・スター!』
何もない空間から現れた、凄まじい魔力を内包した剣が、ジュラの手に握られていく。
すると星が流れる様なスピードでヤモッさんに切り掛かっていった。
「させん!
ギリギリのタイミングでジュラの剣を受け止める事に成功した俺は、安堵の溜息をついた。
『邪魔邪魔邪魔邪魔ー!みんな邪魔よ!
ジュラは自分に強化魔法を掛けたらしい。
受け止めていた剣を凄い力で弾き、目で追うのがやっとな剣戟を、数十数百と放ってきた。
俺はそれを避けて、受けて、いなし、反撃し、また避ける。
次第にキレがなくなって行ったジュラの隙をつき剣を弾き飛ばす。
無手になったジュラに、俺は剣を躊躇い無く振り下ろしたが、それは何者かに防がれてしまった。
『勇者さん……。いや勇者。ジュラは殺らせないっすよ』
……やはりこうなったか。
来ると思ったぜ!ペガリキングス・ペンペンソウ!
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