不協和星人
花野井あす
不協和星人
終業のベルが鳴る。
時刻は十五時過ぎ。
昇降口で楽し気に同級生たちが語らい、この後の遊びの約束を取り付けあっていた。
泥まみれになって、白い生地が生成り色になってしまった上履きを下駄箱にしまうその腕は細く、運動靴に履き替えたその足はとても小さい。
そして、日焼けというものを気に留めることもなく、初夏の日差しをふんだんに浴びながら、彼らは校門前まで駆けていった。
中には早熟な子もいたが、その多くはまだ成長期前であるがゆえ、彼らは體の特徴にさほど差がない。
背たらっている色とりどりのランドセルや身につけているものが彼らが男の子なのか、女の子なのかを伝えていた。
ぼくはそんな彼らの背中を見つめ、一人帰路についていた。
ぼくは彼らが羨ましかった。
互いの都合さえ合えば、好きな時に望む場所で遊ぶことのできる彼らが。
ぼくは放課後に、よその家でゲームをしたことは無いし、公園で鬼ごっこをしたことが無い。
何度か、遊びに誘われたこともある。
誕生日パーティーに呼ばれたこともある。
でも、どれも行かなかった。否。行けなかった。
どんな顔をして、なんと返事をするのが正しいのか。
ぼくにはちっともわからなかった。
ぼくはすべてのことを深く考えて、そしていつも、答えを出せないでいた。
ぼくには、彼らがとりとめなく、意味の持たぬ外国語を話し、ぺらぺらののっぺら坊な顔で笑い、泣いていた。
ぼくは、ぼく以外のひとが、別の星のひとのように思えた。
そうしているうちに、向こう側から、ぼくに声をかけなくなっていった。
ぼくは、いつもひとりぼっちだった。
だから、学年が上がってクラスが変わっても、殆どの生徒が「よく知らない星のひと」だったので、ぼくの生活は何も変わらなかった。
「ねえ、一緒に遊ばない?」
「え。」
驚いた。こんなぼくに話しかけるひともいるのか。五人くらいの集団で、彼らの手にはボールが抱えられていた。
「ぼくが混ざってもいいの?」
「うん。」
ぼくは喜びいさんで、彼らの輪の中に入った。
ぼくはこの星に認められたんだ!
ぼくはこの星のひとになるんだ!
彼らがなんであんなにも愉快げに腹をかかえて笑っているのか、なんであんなにもブツブツと不満を漏らしているのかよくわからないけれど。
ぼくはわかったふりをして、とりあえず、へらへら笑ってやり過ごした。
普通になりたい。
みんなと同じがいい。
嫌われたくない。
でもそんな上っ面の関係が続くはずもなく、いつの間にか、ぼくは大きな過ちを犯してしまった。
悪ふざけのまねごとをして、怒らせてしまった。ぼくはこの星でやってはいけないことを、しでかしたらしい。
何処から何処までが赦されるのか。何処から何処までがいけないことなのか。
ぼくは何一つ理解できていなかった。
だから、彼らがぼくを一心に罵ってきても、何がいけなかったのかわからない。彼らはただの文字の羅列に音を乗せるだけ。
恐ろしいほどにトゲトゲとした声を聞くうちに、ぼくはとうとう、ひとの輪に入ることを避けるようになった。
ぼくはひとりが好きになった。
だれかといるのが苦手になった。
そしてぼくは、子どものまま、おとなになった。
不協和星人 花野井あす @asu_hana
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