第二幕【大魔王の軍団】

2-1【大魔王見参】

 高校中退で派遣社員になった俺、結城 奏太。

 初めての派遣先で待っていたクライアントこと大魔王様は、虎耳の女の子でした。


「……って、二人しかいなくね?」


 玉座から飛び降り、こちらへと歩み寄ってきた大魔王様。

 服装は確かに魔王っぽい。

 仰々しい金糸の刺しゅうが施された紫色のマントと、禍々しい虎の装飾が目立つ黒色の鎧。

 しかしどう見ても子供なのだ、釣り目の。

 腰ほどの長さがある外はねのロングヘアーは、よく見るとトラ柄のメッシュが入っている。


 だがそれ以上に気になるのが両の手足。ネコ科系もふもふで肉球付き。

 脚に至ってはそれこそ逆関節のネコ科動物っぽい構造らしい。

 正直に言って、可愛いと言わざるを得ない容姿だった。


「あはは、はい。今回は当社をご利用いただき、誠にぃ」

「いやいや何話続けようとしてんの! 今日は四天王の面通しって話だったっしょ!?」


 感情が出たのか、マントからひょっこり顔を出す細長い物体。

 可愛らしい、トラ柄の尻尾でした。


「やっぱりそうですよねぇ……」


 そんな相手を前に、スバルさんは誤魔化しているかのような苦笑を浮かべる。


「いやぁ、何と申し上げたらいいものか。まず私の配属は四天王です。二番目専門の」


 二番目の専門? 四天王の二番目ってことですかスバルさん?

 失礼な言い方をすれば、ゲームなどでは結構微妙なポジションだ。


「はぁ。二番目って微妙だわ」

「よく言われます。傷つくけど」


 顎に手を当てながら、スバルさんの顔を覗き込む。

 どうやら大魔王様も同じことを考えたらしいが、思ったことを口にするタイプのようだ。


「って、それは置いとくとしてね。何でスバルと人間の子しかおらんの? その子は四天王じゃないっしょ?」


 大魔王様の視線が、今度は俺の方を上目遣いで覗き込む。

 異形の部分はあれど、外見相応の少女の反応に見えて少し緊張がほぐれる。

 でも大魔王なんだよなぁ。


「ああ、そのですね。最近大魔王様になるクライアント様が多くて、ちょっと人材不足というか、ですねぇ」

「えっ、この世界大魔王様そんなにいるんすか!?」


 大魔王様の反応よりも先に、俺の方が声を上げてしまった。

 パンデさんが教えてくれたこの六つの門がある異世界。

 どうやら魔の王様がゴロゴロいるそうだが、世界の配分どうなってるんだろう。


 考え込む俺を見て、大魔王の少女が口を開く。


「あら、この子この世界初めてなん?」

「はい。本日門を超えてこちらに来たばかりの少年でして」


 「ほーん」とつぶやきながら、俺の頭の先からつま先までを観察する大魔王様。

 何だろう。妙に関心を持たれている気がする。視線がくすぐったい。

 俺には四天王なんて器は一切ないし、出来ることといえば家事が少々だ。

 大魔王のお眼鏡に叶う人材だとは思えないが。


「まぁその辺は分かったわ。でも少しはこっちに融通してもらえんの?」

「すみません。現在四天王部は役職を掛け持ちする者も多くて」

「えー。じゃあスバルもなんか掛け持ちしてるん?」


 役職掛け持ちしてる四天王というのもおかしな話だが、まずあの会社は人手不足をどうにかすべきではないだろうか。

 そんなことを思いながら、スバルさんの横顔を見つめる。


「はい。今は伝説の武器入手を妨害する五大幹部の二番目です」

「二番目かぁ。やっぱ微妙ー」


 大魔王様の辛辣な言葉、二回目。

 さすがのスバルさんもちょっと涙目になった気がする。


「ま、いいわ。うちも初めてでいきなりクレーマーになりたくないし、今日は大目に見るっ」

「ありがとうございますっ。残りの人材も追って合流する予定なので、どうか今はお待ちくださいっ」

「はいはい……あー、そういや自己紹介まだやったねー」


 そう言うと大魔王様。背面飛びで玉座の上に着地。

 そのまま仁王立ちとなり、俺達を見下ろしながら満面のどや顔を見せた。


「我が名はアンゼリカ・タイガ・フォースデイル! 四の門の世界を支配する大魔王、でっ、ある!!」


 腕組みをし、ふふんと鼻で笑う。


「うちを呼ぶときは敬意をこめて、大魔王アンジー様と呼ぶようにっ!」


 ――決まった。


 そう言わんばかりの大魔王アンジー様。

 胸を張りながら俺達に指を差し、綺麗な八重歯を覗かせる笑顔を見せた。

 うん、やっぱ可愛い。

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