『ブランドル博士と異世界【緑の脅威/Verdant Peril】からただ1人生還した仮称:"隊員-X"とのインタビュー記録』

名無しの報告者XXX ▋: ^ )

――本編

▼【ブランドル博士と隊員-Xとのインタビュー記録】


【はじめに】

この報告書は、次元間移動の研究を専門とする研究施設である[編集済]の研究員(ブランドル博士)と、仮名:"隊員-X"としてのみ知られるある一人の個人とのインタビュー記録を示している。隊員-Xは、[編集済]によって組織された特殊部隊に属しており、異世界へ行く調査隊の護衛を担当していた。その調査隊は、次元間移動システムであるI.P.システムによって開かれたこの世界と異世界とをつなぐ"ポータル"を通過し、その世界の調査を任されていた。


I.P.システム(Interdimensional Portal System)とは、我々の所属する[編集済]の研究施設の地下空間に設置されている、高度な次元間移動を可能にするシステムのことである。特殊な装置や技術を使って異なる次元空間へのポータルを作り出すことができ、指定された座標に存在する別のポータルと一致すると、双方向の次元間移動が可能となる。

今回、ポータルが繋がった異世界は座標███,███,███にある未調査の場所で、名称はODW(Observed Different World)-038-unnamed、のちに改名され、ODW-038-Verdantバーダント Perilペリルと命名された。ODW-038にどのような土地があり、どのような生物群が生息しているかなどの情報を得るため、最初に無人機やドローンによる偵察が行われた。その結果、ODW-038は広大なジャングル地帯が広がり、多種多様な植生が密集する、大自然に囲まれた緑豊かな世界であることが分かった。ドローン調査の段階ではODW-038は"危険性なし"と判断され、さらに内部の様子を詳しく知るために調査隊による現地調査が実施される運びになった


【経緯】

調査は、調査隊8名と武装した護衛部隊20名からなるチームで███年██月██日、調査が決行された。調査隊・護衛部隊はそれぞれ、武器や防具を武装をし計28名はポータルを通って異世界へと旅立った。


調査は数日間行われた。その間、何らかの障害により、調査チームとの通信が行えずにいた。それから、5日後の███年██月██日、ポータルから隊員-X、1名のみが帰還する。隊員-Xの服装は、まるで何年もそこにいたかの様に劣化が進んでおり、何かと激しい格闘を繰り広げた様な破れ、裂け目、泥や人間の血液と思える黒ずんだシミ、植物由来と思われる未知の液体による汚れが目立っていた。武器や防具などの装備などは身につけておらず、何も持っていない手ぶらの状態だった。そして何よりも我々を驚かせたのはその彼の身体だった。隊員-Xは通過前とは著しく異なるグロテスクな外見に変貌しており、深刻な精神異常を引き起こしていた。


隊員-Xは直ちに、隔離施設に収容され綿密な検査と解析が行われた。隊員-Xの身体は約60%近くが植物状の組織に変化しており、その変異は頭部、顔面、手、足、胴体など広範な範囲に及んでいた。眼球、鼻、口などの特定の部位では、まだわずかに人間の特徴が識別できる箇所も存続しているものの、手や足は大部分が木の根を連想させる柔軟な性質を持つ繊維状の構造に変化を遂げていた。変異した状態でも腕や脚、指などの関節部位は通常通り自由に曲げ下げ可能になっている。胴体については、一部で人間の皮膚組織や筋肉、内臓組織が保たれている部分も残っていたが、多くの皮膚表面は複雑なパターンで絡み合った、手足と同じような繊維状の組織に置き換わり、内臓にも木の根のような繊維による侵食が広がっていた。


https://kakuyomu.jp/users/user_nwo12n12knu/news/16817330658852826466


隊員-Xはその後、精神医療機関によるメンタルケアを受けたのち、後日、研究員とのインタビューに応じた。生還した隊員-Xはそこで異世界での体験を語った。


▼以下、その時の隊員-Xとのインタビュー


インタビュアー:ブランドル博士

対象:隊員-X(仮称)

日付: ████年██月██日


場所は[編集済]内にある面会室。ガラスパネル越しにブランドル博士と向き合って座る隊員-X、彼は施設のものと思われる白いジャンプスーツに身を包んでいる。彼の顔は、右半分はまだ人間の面影が残っているが、左半分から首にかけては植物化が進んでいた。室内には乾燥を防ぐため、ミストシャワーが設置され、湿度を保てるようになっている。


ブランドル博士「[隊員-Xの名前]さん、こんばんは、今日の体調はいかがですか?」


隊員-X「今日も最悪な気分だ、(間を置いて)ところでブランドル博士、俺は一体何ヶ月あの中にいたんだ?」


ブランドル博士「[隊員-Xの名前]さん、何ヶ月というかのは間違いではありませんか?我々の方の記録では5日間となっていますが?」


隊員-X「はは、5日間?、さっき5日間って言ったか?冗談だろ、俺たちはあそこに間違いなく30日以上はいたぞ!」


ブランドル博士「[隊員-Xの名前]さん?落ち着いてください」


隊員-X「俺たちがあそこでどんな目にあってきたか知りもしねーくせに出鱈目言いやがって███が!██やる!!!!」


(隊員-Xが興奮状態になり、医療スタッフによって速やかに鎮静剤が投与される)


――10分後、隊員-Xが目を覚ます


[記録再開]


隊員-X「……こっちじゃ5日間しか時間が経ってないって本当なのか?」


ブランドル博士「はい、こちらの世界では調査チームがポータルを通過してちょうど5日後、あなたが帰還しました」


(未だ信じられないという様子の隊員-X)


ブランドル博士「向こうの世界で、あなたたちの身に何があったのか、そして、あなたがなぜそのような姿になったのか聞かせてもらえますか?」


隊員-X「正直、あそこでの出来事はもう思いだしたくないが……まぁ、何とか話してみるよ」


隊員-X「初めてあの地に足を踏み入れた時、調査隊の1人がここは緑の楽園だ、とか言っていた気がするが、今思えば飛んだ笑い話だ。あそこは楽園なんかじゃない、まさしく"緑の地獄グリーンインフェルノ"だった、人間が行って良い場所じゃなかったんだ……」


https://kakuyomu.jp/users/user_nwo12n12knu/news/16817330658852944347


隊員-X「武装した俺たちは、ゲートを出て重い荷物を背負いながら、ジャングルを歩いていた。周りには木々や植物が茂っていて、ジメジメとした蒸し暑い湿気に包まれていた。服は汗でぴったりと張り付いて気持ちが悪く、足元の地面はぬかるんでいて、動きが鈍くなった。映画でしか見たことはないが、ベトナム戦争中の兵士たちも似たような境遇だったのかもしれないと思いながら額の汗を拭って歩を進めていた」


隊員-X「ジャングルの中にはこっちの世界じゃ見たこともないような植物や花がいくつも咲いていた、調査隊の面々は心を躍らせながら、それらの写真を撮ったり、メモに記録したりしていた」


隊員-X「でも、俺にはどこかこの世界に繁殖する植物たちに得体のしれない不気味さを感じていた、そりゃ、誰だって今まで見たこともないような馬鹿でかい紫色の花を咲かせる植物や、イソギンチャクみたいな海洋生物と植物の中間のようなもの、脳みそみたいなシワだらけの果実をいくつもぶら下げてるフウセンカズラのような植物を見れば気味悪さを感じるのは当たり前だろう、でもそれとはまた違った何か違和感を感じていたんだ」


https://kakuyomu.jp/users/user_nwo12n12knu/news/16817330658852973707


https://kakuyomu.jp/users/user_nwo12n12knu/news/16817330658852989041


隊員-X「俺はあることに気がついた、このジャングルは鳥や動物の鳴き声一つしない気味が悪いぐらいの静けさに包まれていたんだ。こんなに植物が繁殖している場所なら虫の一匹や二匹、飛んでいてもおかしくないのに、虫が飛んでいるところも見かけなかった」


隊員-X「そして、植物が密集している茂みを手で掻き分けながら進んでいる時だった、隊員の一人が首に怪我をしたんだ。どうやら、移動中に枝に鋭いいばらが生えた木と接触して怪我をしたらしく、首にできた切り口から血を流していた」


隊員-X「そこからだ悪夢が始まったのは……、さっきまで静寂に包まれていた森の中が急にざわめき始めた、俺はそこで、蛇のような何かが地面を這っているのを見た、それは、一匹じゃなく何匹も地面の中を蠢いているようだった」


隊員-X「前方で隊員の一人が悲鳴を上げた、見ると巨大な蛇が起き上がって俺たちを見下ろしているようだった。しかし、よく見るとそれは蛇じゃなかった。それは、巨大な植物の蔦だったんだ、しかもその植物の蔦は次々と地面から起き上がっていった。」


隊員-X「気がつくと俺たち部隊は巨大な蛇のような蔦に周囲を囲まれていた、俺たちはそれぞれ銃を構えて戦闘態勢に入った。すると、今度は後ろで悲鳴が聞こえた、見ると隊員の一人が蔦に足を取られ、宙吊りにされていた。その隊員はさっき首元を怪我したやつだった。仲間を助けるため、俺たちは銃を発砲しようとしたが、隊員に当たる可能性があり無闇に射撃することができなかった。そうこうしているうちに、宙吊りにされたその隊員にまた別の蔦が、蛇みたいに近づいてきて絡みつき始めた、何をするのかと見ていると、そいつは吸盤状になっている先端を隊員の首の傷に吸着させ、まるでヒルみたいに血を啜り始めたんだ。悍ましい光景だった。やつはミルクシェイクを飲むようにズルズルと隊員の生き血を啜っていた、隊員の顔色は青ざめていき、見る見るうちに干からびたミイラみたいな見た目になっていったんだ」


隊員-X「皮と骨だけを残し絶命したその隊員は、力無く、頭から地面に落ちていった。そこで恐怖に慄いた隊員の一人が武器を構え、蔦に対して発砲をしたんだ。植物の蔦はアサルトライフルの銃撃によって木っ端微塵に吹き飛んだ。それを合図にして、部隊は武器を手に取り、植物に対して一斉射撃を繰り広げた。周りにあった蔦は跡形もなく吹き飛ばされ、辺りには植物の残骸が散らばっていた。


隊員-X「安心したのも束の間だった、樹上や地面、草木の間から植物の蔦が次々と伸びてきて、俺たちに襲いかかってきた。ここから一気に戦闘が始まった。俺も含め、部隊は植物に対して銃撃戦を繰り広げた。だが、植物の蔦は粉砕してもまた、どこからともなく伸びてきた。」


隊員-X「部隊はまた1人、また1人と蔦に巻きつかれ、血を吸われていった。植物はいくら撃ってもキリが無く、無限に生えて来るかのように思われた。犠牲者も増える一方で、これ以上弾薬を使うわけにもいかず、部隊は撤退を余儀なくされた」


隊員-X「その場を撤退した俺たち部隊はテントが設営してあるポータルの付近まで戻り、体勢を立て直すことにした。しかし、いくら歩き回っても目的の場所に辿りつくことはなかった。それよりもむしろ、どんどん場所を遠ざかっていっているようにも感じた。辺りは次第に暗くなり始め、気がつけば夜になっていた。仕方なく、俺たちはその場で野営をする事にした、もはやこのジャングルに最初に感じていた静けさはなくなり、葉が擦れる音やメキメキと木の根が動くような音が耳に聞こえて来た。まるでこの森全体が俺たちのことを監視し、狙っているように思え、その晩は一睡もすることは出来なかった。」


隊員-X「それから、また二晩、三晩……と俺たちはポータルのある場所を目指して歩いた、座標計は使い物にならず、もう感に頼るしか無かった。その間にも、部隊は植物たちによって次々と殺されたり、怪我を負わされていった」


隊員-X「ある時、俺は裸の女が森の中にいるのを見た。女は妖艶な仕草で体をくねらせ、俺を誘惑しているようだった。女の誘惑に魅了された俺は、背後をついて行った。あと一歩で女の白い肌に触れる寸前まで近づいた時、俺の耳に、オペラのような美しい歌声が響き渡ったんだ。だが、その美しい歌声は次第に人々の悲鳴に変わっていった。俺はそこで正気に戻った。すると、目の前に巨大な胃袋のような物体が垂れ下がっていたんだ。よく見るとそれは、ウツボカズラを思わせる巨大な植物だった。その植物は幻覚作用のある匂いを出し、まんまとそれに釣られ、誘い込まれたものを食らう。その匂いに釣られて近づいていった隊員の何人かが、地面から出た触手のような蔦に捉えられ、そのままデカい胃袋みたいなの中に押し込まれていった、俺の聞いたオペラのような歌声は、巨大な胃袋の中で溶かされていく隊員たちの断末魔だった。それに気がつく事ができた俺は間一髪、ナイフで蔦を切り、難を逃れることができたんだ」


隊員-X「人間を襲う植物の中には、地面に根を張らず完全に自立して動くものもいた。そいつは、丸い胴体に細長い数本の脚が生えた、目も口もないザトウムシみたいな植物で、そいつは普段は樹木の枝の上などに生息しているんだが、人間が近づくと体に飛びつき、球状になっている胴体の下部から針を出して人体に突き刺す。針を刺された人間は、三日程度で腫瘍のような出来物が体全身に現れ、さらに三日後、サイズの小さいそいつの子供みたいなやつが、大量に体から吹き出し、宿主は絶命する。この植物にやられた隊員の遺体は内側から突き破られたように、体全体がズタズタになっていた」


隊員-X「沼地や湿地などの地面に生えているハエトリソウのような見た目の巨大な植物もいた。そいつはトラバサミのような植物で、普段は見つからないように、棘の生えた2枚の葉を開いた状態で、地中の中に待機している。何も知らずにその中に足を踏み入れると、その二枚貝のような葉がトラバサミのように勢いよく閉じ、足を食われてしまう。こいつのせいで隊員の数名が足を食われ、膝から下を切断する大怪我を負った」


隊員-X「もうこの世界に人間にとって安全な場所はなかった、まるで俺たちは狼の群れの中に迷い込んだ羊だった」


隊員-X「この地獄のようなジャングルを彷徨い続けて10日ほどが経過した。その頃にはもう調査隊3人と俺含めて護衛隊8人しか残っていなかった。そのうち、5人が重軽傷を負っており、その中でも重傷を負っているものが2人、一人は両足を失い、もう一人は噴霧状の溶解液を吹き出してくる、黄色と黒の斑模様をしたユリに似た植物によって顔面の半分を溶かされ、消失していた。


隊員-X「俺たちは睡眠もろくに取れておらず、疲労困憊の状態だった。そんな時だった、それはこの世界に来てから初めて見る人工物だった。森の開けた場所に石造りでできたピラミッド型の遺跡が建っていたんだ」


隊員-X「部隊は遺跡の内部に入り、中を調べる事にした。遺跡の中は入り組んだ通路のようになっており、壁にはいくつも壁画が彫られていた。誰かがいる気配はなく、内部は静寂に包まれていた」


隊員-X「遺跡の中には植物も入ってくきておらず、この世界で見つけた唯一の安全圏だった。部隊はこの遺跡を新たな拠点とし、ここでしばらく生活をする事にした」


隊員-X「俺たちは残り少ない食糧を分け合いながら、この遺跡の中で生活をした。調査隊の面々は遺跡の壁に彫られている壁画の解読に精を出していた。調査隊にとって疑問の一つは、なぜこの世界には植物しか繁殖していないのにも関わらず、植物の多くが肉食性に進化しているのか?という点だった、そして、この遺跡の存在と解読中の壁画によって、この世界にかつて人間と同じような知的生命が存在していたことが明らかになった。壁画を調べていた調査隊の一人がある説を立てた。調査隊の立てる説というのは、この地を現在支配している植物たちによって、そのかつての住人たちは、絶滅させられたんじゃないかというものだった。そして、恐らく植物たちが凶暴化し、住人たちを襲うようになった要因は、この壁画に書かれている事が鍵になると考えられ、解読が急がれた。


隊員-X「ちなみに食虫植物というのは、水と光合成ができる環境があれば、育つ事が可能らしい。虫はあくまでも補助的な栄養供給手段でしか無く、この世界の肉食植物たちが、植物以外の生物がいない環境にもかかわらず、長い間生存していた理由も同じ理屈だろうと考えられている」


隊員-X「遺跡の中で生活を初めて、3日が経過した頃、壁画の解読によってこの世界にはかつて、俺たちの住むこの世界と同程度、いやそれ以上の技術を持った文明が栄えていた可能性がわかってきた。しかしまだ、この世界が植物に支配されるようになった要因となるものに関しては解読できずにいた」


隊員-X「俺たちがこの遺跡に籠りはじめて、10日近くが経過した、その頃にはもう食料は底をつき、隊員たちは食べ物に飢えていた。隊員たちの中には、精神的なストレスに耐えかね銃で頭を打ち抜き、自害するものや、精神崩壊し発狂し出すものも現れ始めた。そんな中、遺跡の中を調べていた隊員の一人が地下を発見した」


隊員-X「遺跡の地下には、巨大な地下空間が広がっており、その中には石造りで出来た建物がいくつも建てられていた。そこは、地上が植物に支配され始めた時に、地上にいた住人たちが、避難するために作られたシェルターのような場所だったのかもしれない」


隊員-X「地下を探索中、そこに、人影のようなものが見えた。それは、建物の中や物陰から、ゾロゾロと現れ、こっちに近づいてきていた」


隊員-X「それは人型の植物だった。その体は全身が蔦に覆われており、血管のように大小様々な太さの管が複雑に絡み合っていた。頭部は巨大な蕾のような形状になっていた。そいつらはゆっくりと俺たちのいる方へ、歩み寄ってきた。俺たち部隊は残り少ない弾薬を使って、その人型植物を銃撃した。人型植物の動きは鈍く、力も弱かった、もはや、銃で攻撃する必要もなく肉弾戦を駆使して簡単に倒す事ができた。触ってみると、人型植物の体は酷く乾燥しており、枯れた枝のように脆く、簡単に折れたり、粉々に砕けてしまった」


隊員-X「ただ一点、奇妙な事があった。人型植物たちは、倒される間際、蕾状になっている頭部を花のように開花させ、ガスのようなものを撒き散らしていたんだ。最初、俺たちにはこれが何を意味するものなのかわからなかった。地下にはこの枯れて瀕死に近い、人型植物がいる事以外に目ぼしいものはなく、部隊は再び、上階へ戻る事にした」


隊員-X「異変が起きたのは半日が過ぎた夜の時だった。妙な喉の渇きに襲われた。気がつくと雨水を入れていた水筒を空になるまで飲み干してしまった。不思議と空腹感はなく、とにかく喉の渇きだけが酷かった。それから何日かして、人体に変化が起こり始めたんだ」


隊員-X「それがどんな変化だったかは、今、目の前にいる俺を見ればわかるだろう」


隊員-X「人体の植物化には個人差があった、あるものは日が経つほど、短時間のうちに体が変化していった、また、変化が遅いものもおり、俺もそのうちの一人だった、恐らく、変異の速度に差があるのは、あの時、人型植物の蕾から噴出されたガスのようなものを吸った量に起因するのだろう」


隊員-X「植物化が進んだ隊員の中には、こんなことを頼む奴もいた。そいつは俺に銃を渡してこういった。「完全に人間を失う前に殺してくれ」と、俺は言われた通り、その隊員の眉間に銃口をあて、引き金を引いた」


隊員-X「気がつけば俺と調査隊1人・護衛隊2人の計4人しか残っていなかった。4人はそれぞれ最も植物化が軽い組だった。植物化の進行が早かったものは、それぞれ、ある者は自ら引き金を引き、ある者は誰かに引き金を引かせ、死んでいった。結果的に地下の連中のように、完全に植物と同化をする者はいなかった。残った4人もこの頃にはもう全員死ぬ事しか考えていなかった。4人は使える武器を見せ合った、弾倉はどれも空になっており、残りの弾薬もすでに使い切って残っていなかった。使える銃は、俺の持っていた弾倉に3発の弾丸が入ったBeretta M92だけだった。」


隊員-X「最後に誰が残るか、という話になった。最初4人は互いの顔を見合い、長い沈黙が流れた。最終的に俺が自ら名乗りを上げ、最後に残る事にした。俺はしっかりと相手が絶命するように、細心の注意を払って一発、二発と引き金を引いていった。三発の引き金を引こうとしていた時、彼は言った。この世界の秘密が分かったかもしれない、彼は壁画について調べていた調査隊の1人だった」


隊員-X「調査隊の話によると、かつてこの世界では大規模な核戦争が行われたらしい。核兵器の影響により、世界は汚染され、荒廃していた。この世界に住んでいた研究員たちは、汚染を食い止め、元の環境へと戻すためにあるプロジェクトを遂行した。それは汚染物質を除去できる人工的な植物を開発することだった。開発は成功し、不毛の土地に植物の種子を散布、研究員たちは経過を見守った。

しかし、数10年が経ったとき人工植物に異変が起こり始める、人工植物は吸収した汚染物質の影響を受け、変異を遂げ始めていた。環境改善のために開発された植物たちだったが、その汚染を自らに引き受けた影響で異常な変異を遂げ、この世界の住人にとって新たな脅威へとなり始めた。変異した人工植物の中には肉食性に変異するものや、動物に寄生する植物に変異するものも現れた。

汚染物質を吸収し、変異した人工植物は、脅威的なスピードで荒廃した地表に繁茂していった。肉食植物や動物に寄生し繁殖する寄生植物の影響によって、植物以外の生物は生存ができない環境になっていった

範囲を広げていく人工植物に対し、住人たちの生活圏は減っていき、数を減らしていった。さらに数十年が経過する頃には、この世界の住民の文明は紀元前のような水準まで後退し、植物の恐怖に怯えながら、影を潜めて生活する事を余儀なくされていた。

半世紀が過ぎた頃にはそこにはもう住人の姿や文明の面影は消え失せ、やがて、現在のような、植物たちだけが支配する世界が広がり始めた。皮肉なことに、住人たちが目指していた汚染されていない、元の環境は手に入ったが、今度は人間がまともに住むことができない世界へと変わってしまった。」


隊員-X「そして何年、いや何千年か経過した時、何も知らない俺たちがこの世界にやってきた。肉食植物たちはこの植物以外の生物が死滅した世界で久しぶりにやってきた動物の血の匂いに反応し、活動が活発化したのかもしれない。調査隊は話を終えると、「悪いな、無駄な時間を使わせた、殺ってくれ」と言い残し、俺は最後の引き金を引いた」


隊員-X「気がつくと俺は森の中を一人彷徨っていた。この時の記憶は朧げだが、植物にでも食われてここで死のうと思っていたんだろう。だが、植物たちは襲っては来なかった、同種だと思われたのかもしれない。数字時間、いや、数日近く俺は森の中を彷徨った。歩いていると、見慣れた場所にたどり着いたんだ。そこは、俺たち部隊が最初にポータルのある拠点だった」


隊員-X「最初は夢か幻かと思った。でも確かにそこにはテントや持ってきた道具、そして通ってきたポータルが存在した。俺は装置を見つけると俺の育った世界、故郷に座標を合わせ、ポータルを潜った」


隊員-X「これで俺の覚えている話は終わりだ」


ブランドル博士「ありがとう話してくれて、まずは、この過酷な旅の中、よく最後まで生き残り戻ってきてくれた」


隊員-X「俺はこの後どうなる?」


ブランドル博士「今後の処置に関してはこちらの方で検討中だ、だが必ず、植物化の治療法を探し出し、元の姿に戻してみせる。だから待っていてくれ」


[記録終了]


【結論】

人間の体を変異させる"花粉"の詳細な分析結果と感染者の治療方法が見つかるまで、隊員-Xは、施設の中で植物化の進行を遅らせる事ができる、薬品を投与し隔離されている。

ODW-038はランク4 (:異世界の環境、異世界の生物、異世界の技術、異世界の文化、異世界の歴史など、異世界探査に危険な要素が非常に多い。異世界探査は非常に危険であり、成功する可能性は低い)の指定を受け、関係者の安全を確保するために十分な予防措置が取られるまでは、この世界への探索は推奨されない。

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