BOTSU NOTE

@cawcat

Alien Heroes

 ここは千年続く栄光ありし王国の首都、その中心に聳える王城。

 その中でも奥まった場所にある、窓もなく、小さな明かりだけが照らす狭い部屋。

 

 地面には、淡い光を放つ勇者召喚の魔法陣。

 

 魔術師達が儀式を終えると共に、魔法陣からは光の粒子がふわりと溢れだして踊り、幻想的な雰囲気を醸し出す。

 やがてその光は徐々に集まり、人の形を成していく。

 

 それを見て満足げに頷いた王は、光から生まれた人影に向かって声を掛けていく。


「異界よりよくぞ参った勇者よ。悪逆非道なる帝国を止めるため、お主には我が国へ力を――」


 王が勇者を迎え、命を与える最中。

 しゅるり、しゃらりと。再び召喚陣が光りだした。

 

「二人目の勇者だと……?記録にはないが……まぁよい。絶大な力を持つ勇者を二人も保有するとなれば他国への――」


 不測の事態に対し、王は早くも皮算用を始める。

 最もそれは、取らぬ狸の皮算用ではない。召喚した勇者はこの世の道理を知らぬが常。

 召喚者には、召喚された勇者にこの世界の常識を教える権利、いや義務がある。

 世界の常識をゼロから教えるということは、我々の思想をゼロから刷り込むのにも等しい

 そうなれば勇者とて、自由に操れる駒の一つに過ぎない。

 王がの皮算用をしている間にも、光の粒子が人の形に集まってゆく。

 

 そして、ばす、だか、ぼふ、だかといった気の抜けた音を立てて、新たな勇者が陣内に現れた。


「……待て、召喚の義は終わったのではないのか?」


 召喚陣の光は、収まらない。

 むしろ、先程よりも強く光っているような気さえする。

 否、それは確実に、先程よりも強く輝いている。

 光の粒子が次々と人の形に集まり、次々と勇者が現れる。

 

 ばす、ぼす、ぼふ、ばふ。

 

 光は止まない。

 気の抜けた音は、いつまでも鳴り止まない。

 5か、10か、100か。

 勇者と、これから勇者が現れる証である光の粒子の数は、止まずに増え続ける。


「何だこれは……何が起きている!?」


 その総数が1000を越えようかという時。


 最初に呼ばれた勇者が、初めて声を上げた。





「1ゲトオオオオオオオオオオオオオォ!!」




 

 最初の勇者の奇声を皮切りに、次々とが声を上げ始める。


「っしゃあログインキター!」

「のりこめー」

「せっま!ログイン終わった奴らはよ出ろはよ出ろ!満員電車かよ!!」

「おー中々リアルやんけ」

「ログインーって狭っ!」

「なんか成金趣味のデブがいる」

「これチュートリアル?」

「ストーリーとかスキップでいいだろ、とりあえずレベリング行くぞ!」

「ギチギチでワロタ」

「出口どこ?」

「新作のオープン日はまぁこうなるなw」

「草」

「臨時パーティ募集、誰か一緒に仕様把握しようぜ」

「鯖が死にそうだな」

「単芝は殺せ」

「これプレイヤー重なってる?判定どうなってんだ」

「こんだけ同じ空間にプレイヤーいてラグらないのすげーな」

「出口あっちか、NPCとかほっとけほっとけ行こうぜ」

「あ、ぽこたんインしたお」

「ログインー!」






 その日、王国は勇者召喚に成功した。

 

 その成果により、王国は。


 幾万の勇者という遊び人達ゲーマーの手によって、遊び場ゲームへと変貌した。

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