異世界エルフ温泉 〜辺境のユグドラシルの森で温泉旅館の聖水に浸かり、のんびりスローライフ生活〜

滝川 海老郎

第一章 十歳、赤字旅館の立て直し

第1話 エルフ転生

 日本の大都会東京。

 毎日忙しく電車で高校に通う女子高生、それが私。

 花も恥じらう女子高生。セーラー服にスカートひらり。

 ところが駅からの帰り道、トラックに轢かれて死んでしまったんだよ。これが。

 あぁ、私よ死んでしまうとは情けない。


  ◇


 小さい頃はよく覚えていない。

 物心ついた今は十歳の少女になっていた。

 私はどうやら転生したらしい。

 前世の記憶は一部、朧気ながらも覚えている。


 ここはユグドラシルの大木がある辺境だという話だった。

 金髪碧眼で綺麗なロングの髪は私の自慢だった。

 そして尖った耳。


 ――ハイエルフ。


 私の両親もユルドラシルの下で代々生活しているハイエルフだった。

 町へと出ていった仲間たちもいた。彼らは人族とも混ざり合い、今でいう普通のエルフになり、さらに血が薄まった者たちをハーフエルフなどという。


 さてそんな辺境の森で何をしているかというと、実家は温泉旅館だ。

 ユグドラシルの木に集まって地下のマグマに温められた水は温泉となる。

 そのお湯は聖水であり、治療効果があったのだ。

 ということで湯治をしに全世界から人が集まってくる。


 怪我はポーションやヒールで治りやすい。

 また手足を失ってその傷だけポーションで治しても新しく生えてくるわけではなかった。

 一方、病気はというと流行り病はハイポーションなどで治すことができるものの、慢性的な病気などは治療効果が低かった。


 そんな風に治療しきれない症状の人たちが藁にも縋る思いで集まってくるのが、ここエルフ温泉なのだ。


「いらっしゃいませ~」


「あら、可愛らしいメイドさん」

「えへへ、ようこそエルフ温泉へ」


 私が挨拶をすると、お客さんたちは大抵ニコニコとして、たまに頭を撫でてくれたりする。


 今日も一組の冒険者パーティーのお客様がやってきた。

 筋肉質のリーダーの男性。二十五くらいだろうか。

 それに同じくらいの年齢だと思われるが、それよりは若く見える美人の女性が二人。


 三人とも腕などに古傷が少し残っていた。

 安いポーションで急激に回復させると完全には戻らず、痕が残ってしまうことがよくあるのだ。


 複数の女性を従えた男性冒険者というのはよくあるパターンだ。

 この国では重婚は認められているし、貴族にだって第一夫人、第二夫人というふうに複数の女性と結婚することもある。

 それだけの甲斐性、経済力があるということなのだろう。


 冒険者パーティーは館内に入っていく。

 私はもう少し玄関の掃除だ。


 この辺りは風が吹くとユグドラシルの葉が落ちてくるので、集めて捨てないといけないのだ。

 この捨てちゃうユグドラシルの葉にも聖水のように回復効果があり、よく煎じて飲む風習があった。


 客室でお出しするウェルカムティーがそうで、全室ユグドラシルの葉のお茶となっている。

 捨てるくらいいっぱい集まるので、お土産コーナーで販売もしている。


 翌々日の朝。


「ありがとうございました~」

「あら、この間のメイドさん。とってもよかったわ。お肌もこの通りつるっつる」

「ありがとうございました。またお越しください」

「また疲れが溜まったら来たいわね。一泊で帰る予定が二泊もしちゃったわ」

「ありがとうございます」

「ばいばい~」

「ばいばいです、お姉さん」


 冒険者パーティーは、素肌に残っていた古傷がすっかり消えていた。

 そしてお肌もこの通り、つるつる、すべすべになっている。

 大満足してくれたようで、笑顔で帰っていった。


「あら、ピーニャちゃん、お見送り?」

「はい、シルビアおばあさん」

「えらいわね」

「えへへ」

「さて、私は朝からお風呂に入ってくるとしましょう」

「いってらっしゃいませ」

「うふふ。行ってきます」


 シルビアおばあさんだ。

 腰痛が酷いといって、馬車でやってきたお客さんだった。

 当初、一週間の予定だったのだけど、もう一か月くらいいる。

 裕福なご家庭なのか、お金は問題がないみたいだった。

 ゴルイドおじいさんとご夫婦で一緒にきて、毎日仲がよさそうだった。


 そんなこんなで毎日、温泉旅館を手伝っている。

 これが私、ピーニャ・ラビエリス・ブロッケンシュタイン男爵令嬢。

 あ、そうそうお父さんは温泉旅館なんだけど、一応男爵家でこの森の領主を兼ねている。


 そんな感じで、色々な人がきて楽しい毎日を送っている。

 次はどんなお客様がくるだろうか。

 たまに難題が降りかかることもある。


「ピーニャ、重大発表だ」

「なんですかお父さん!」

「実はな、うちの旅館、今月赤字でな、このままだと潰れてしまうかもしれない」

「そんな!」

「まだ、貯金がいくらかある。すぐには大丈夫だが、改善していかなければ先はないだろう」

「わかりました、私も何か考えます」

「よろしく頼んだぞ、ピーニャ」

「はっっいいいいい」


 温泉宿のメイドさんは今日も頑張って働きます。

 赤字を解消する方法を考えないと。お家がなくなっちゃったら大変だ。

 それではエルフ温泉、はじまりはじまり。

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