はじまりはじまり
「mmt……モmt……モモt?」
――モモタ!
そんなシンデレラの声でモモタはハッと我に返った。
辺りを見回すとクラスメイトに取り囲まれており心配げな視線を寄せられる。
現在、おとぎ学園1年桃組の漂流教室。
「モモタ、はやく金銀財宝の隠し場所を吐きなさい! 全員でゴールドラッシュよ!」
シンデレラは相変わらずがめつい。
……こいつ、全然ブレねえんじゃ。
しかしシンデレラのそんなところにモモタはすこし救われた。
「モモタさん、《問4.》の答えを思い出しましたか?」
アマテラス先生は例のアルカイックスマイルで出題を繰り返す。
モモタは詰め寄るシンデレラをいなしつつ、窓の外のずっと遠くを眺める。
そして答えた。
「さあ、そんな昔話はもう忘れたんよ」
きっと母親のおなかの中に置き忘れてきてしもうた。
じゃから、これは忘れ去られるべき物語なんじゃろう。
モモタはそう思う。
「わかったわ! あんた、金銀財宝を独り占めするつもりね!」
憐れにも、シンデレラは最後までわけのわからない誇大妄想に取り憑かれていた。
「おめえはちったー忘れえ」
ガラスの靴を忘れてる場合か。
モモタが呆れていると、ちょうどいいタイミングで授業開始のチャイムが鳴った。
「本日日直のモモタさん、号令をお願いいたします」
アマテラス先生にそう促されるモモタ。
「起立、気をつけ、礼、着席」
モモタは素直に号令をかけながら感慨深く思う。
僕が入学した初日と比べて、ここ数日で一気に生徒が増えたものである。
教室の後ろの棚には改訂されたお伽噺の絵本が並んでいた。
『シン・シンデレラ』
『シン・長靴を履いた猫』
『シン・赤ずきん』
『シン・オオカミ少年』
『シン・3匹の子ブタ』
そして新入生たちはおとなしく席に着くと、自然と担任教師に注目した。
「ええ、それでは」
声の調子を整えてからアマテラス先生は教卓の上に両手を置く。今日の授業内容についてにこやかに説明した。
それは。
あまりにも。
掛け値なしに。
世界一受けたくない授業でしたとさ。
「ただいまより、世界征服の授業を始めます」
かくして。
天照大御神から人間退治を任されてしまったモモタ。
さてはて、これからモモタ一行にどんな物語が待ち受けているのか。
事実は小説よりも鬼なり。
神。半鬼。魔女。猫。馬。人狼。豚。
次に、おとぎ学園に入学しますのは鬼か蛇か。
新たなおとぎ話のはじまり、はじまり。
MOMOTA 悪村押忍花 @akusonosuka
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