第50話 これにて一件落着
言葉が詰まったとき、再び俺の「何でもしますからっ」という声が聞こえてきた。そして 笑顔で何度も再生する舞子先生の姿があり、それが恐怖でしかなかった。
「いや、その」
「何でもするんでしょ?」
「でも、それは」
「責任、取らない気なの?」
「いや、だから」
俺は何をされるかわからない状況の中たまらず抵抗すると、遠くの方で、また俺の「何でもしますからっ」という声が聞こえてきた。
そして優しい顔で俺をのぞき込んでくる四方教授、人の笑顔というものがこれほど怖いものだと感じたのは今日が初めてだ。
「男なら責任とれるわよねルシオ君、ねぇ?」
「は、はい」
「はい決まり、じっとしててねルシオ君」
むしろじっとしかできない状況の中、俺の体は四方教授に隅から隅まで調べられるという苦痛時間の過ごした。
これじゃまるで宇宙人にさらわれたかのような気分だ。いや、あながち間違ってはいない表現かもしれない。もはや心を無にすることでしかこの状況に耐えられず、俺はただただ天井を見上げながら早く事が済まされるように願った。
そうして何分、何時間がたっただろうか?とにかくボーっとしていると、突然拘束具が外れて、俺は自由の身になった。
哲心も俺が手錠を外してやったときこんな気分だったのだろうかと、自由に動く体を動かしながら、自由の素晴らしさを噛み締めていると、四方教授が話しかけてきた。
「ふぃー、やっぱり不思議ねあなたの体」
「そんなもん人体ってのはもともと不思議なもんなんですよ、ほら、どっかそんな感じの展示会とかやってるし」
「いやいや、そういうことじゃなくて、突然変異型ギフテッドであるあなたの体が興味深いってことよ、まるでUMAや宇宙人の解剖でもしてる気分よ」
「宇宙人解剖したことあるんですか」
「ないわよ、あるわけないじゃない」
「だったら」
「そんな気分だってことよ」
「そうですか」
「えぇ」
「じゃあ、俺はもう帰っていいですか」
「あぁー、まってまってルシオ君」
「なんですか、俺は今狂った科学者に解剖されてナーバスなんですよ?」
「とんでもない口ぶりね、失礼よ」
「で、なんですか?」
「これからはいき過ぎた行動は控えること、分かりましたか?」
「え、何のことですか?」
「言わなきゃわかりませんか?」
笑顔ではあるが、どこか闇を感じる不敵な笑みに俺は今日どうしてこんなところにいて、ひどい目にあったのかを思い出した。
「え、あの、その、分かりますっ」
「いいえ分かってないっ」
「えぇっ?」
「いいですかルシオ君、あなたは特別なギフテッドなんです、それがやたらめったら問題を起こしていては困るんですっ、しかも今回の件はあの空繰とかいう無法者集団を相手にしたそうじゃない」
「は、はい」
「ギフトガーデンにきて早々こんな問題に首を突っ込むなんて・・・・・・もう少しちゃんと見とくべきだったわね」
「すみません」
「いいですか、しばらくは絶対に問題を起こさず、真面目に舞子先生の授業を受けることに専念しなさい、分かりましたか?」
「はい」
「本当にわかったの?」
「わ、わかりました、ちゃんと授業受けます」
「分かればよろしい」
「はい」
「絶対に、自分から面倒ごとに首を突っ込まないこと、これを肝に銘じなさい」
「分かりました」
「では、早く学校に行きなさい、外でお友達も待ってます」
「学校?友達?」
学校というのはなんとなくわかるが、友達がまってるというのがよくわからない、友達といえばクルリや哲心の事だろうか?
しかし、俺にはもう一つだけ心残りなことがあった。そう、それは「EVE SILVER」の事だ、俺はそんな気がかりから、学校を終えると、すぐさまキラミのもとへと向かった。
早足で「EVE SILVER」へとたどり着くと、店はもう開店しており、店の近くに多くの女子学生であふれかえっていた。
以前に比べて圧倒的に女性が多い中、少し周りからの視線を感じつつ、店内へと入ると、店の中も女子学生でにぎわっていた。
はて、こんなにも客が入っていただろうか?
それともこの店は本来これくらいの客が入る超人気店なのだろうか?
とにかく、そんな人であふれかえる店内をかき分けながらなんとかキラミの姿を探そうとしていると、店のカウンターで忙しそうに会計を行っているキラミの姿が見えた。
彼女はぎこちない様子で会計を行い、何度も何度も頭を下げていた。
これだけ客が入ればそりゃこんなことにもなるだろうとしばらく忙しそうなキラミを眺めた。
俺は客足が落ち着いてから話しかけようと、しばらく店内で時間をつぶしていると、徐々に客足が落ち着いていきた。そんな様子に俺はすぐにキラミに駆け寄り声をかけた。
「大盛況だな」
「猫のお客さん、無事だったんだな」
キラミは笑顔で俺を迎えてくれた。前にあった時よりいくらか元気な様子の彼女は、とても生き生きとしているように思えた。
「あぁ、それよりここがこんなに人気店だって知らなかった」
「いや、ここは前までこんなに人の入るところじゃなかった」
「そうなのか?」
「あぁ、これは猫のお客さんのおかげなんだ」
「お、俺のおかげ?」
「あぁ」
なんだか、とてもやさしい笑顔で俺を見つめるキラミは、俺の目を見つめて離さなかった。
「いや、俺は何もしてないだろ、なんで俺のおかげなんだ?」
「猫のお客さんが動物のアクセサリーをほしいって言ったから」
「なんでそれで俺のおかげになるんだ?」
「私、今まで動物のアクセサリーなんて作ったことなかった、いつも作るのは凝った装飾のカッコいいものばかりだった」
「たしかに、そんな感じだったな」
「でも、初めて猫のお客さんのために作った動物のアクセサリー、猫のお客さんはとても喜んでくれた」
「あぁ、だってうまくできてただろ、実際かわいいし、ほら今もつけてるぞ猫のネックレス」
俺はかけたネックレスを見せると、キラミはにんまり笑った。
「お客さんに褒めてもらったのは初めて、それでちょっと自信ついてたくさん動物の作った、そしたらたくさんお客さんきてくれるようになったんだ」
とてもうれしそうに語るキラミ、それは最初にあった時のクールな印象ではなく、年相応のかわいらしい反応であり、たまらず頭でも撫でたくなった。
「そうだったのか、でもそれは俺のおかげじゃないぞキラミ」
「え?」
「ここにあるものを作ってるのは全部キラミの力だ、だからこうしてたくさんの人に気に入ってもらえたんだ、俺は何もしてない」
「でも、猫のお客さんにはきっかけと勇気をもらえた」
「そ、そんなもん気にするな、俺は何もしてないっての、それより、ここ最近の空繰騒ぎの礼をと思ってな」
「あ、そういえば本屋哲心はどうなった、た?」
「大丈夫だった、いろいろと迷惑かけたな」
「そんなことない、無事ならよかったった、でも猫のお客さん凄い、六等星なのにどうやった?」
「そんなもんちょちょいのぱっぱだよ」
「ちょちょいのぱっぱっぱ?」
「あぁ、まぁ今日来たのはそれだけだ、じゃあキラミも店がんばれよ」
「あ、猫のお客さんっ、待って」
「ん?」
「ま、またのご来店、お待ちしてるっ」
何も買っていないのに深々と頭を下げるキラミ。そんな彼女に軽く挨拶した後、俺は「EVE SILVER」を後にした。
店を出ると、なぜかクルリと哲心が待っていて、二人して何の用かと聞くと「別に」と答えた。
何の用もないのに俺のもとへと来てくれたことになんとなく友達ってこんなものなのかもしれない。そう思うと、思わず口角が上がった。
後天性ギフテッドによるギフトガーデンでの行動記録 @momonokaki
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