第49話 責任の取り方

  目を覚ますと、目の前には見知らぬ部屋が広がっていた。


 薄暗い部屋の中は、何の音もすることなく、まるで夢の中にいるようなそんなフワフワとした奇妙な感覚がした。


 そんな状況の中で俺はもう一つ気味の悪いことに気が付いた。


 それは、手足が全く動かせないことだ。金縛りにでもあったのかと手足を眺めると、そこには拘束具がついていた。


 はて、これは夢だろうか?


 はたまた、空繰とか言うやつに関わってしまったから、こんなことになっているのだろうか?


 とにかく、理解不能な事態の中寝起きの頭を覚まそうとぼーっとしていると、ふと何者かの足音が近づいてくるのを感じた。

 それはコツコツとこぎみ良い音を立てながら近づいてくると、俺の背後でその音はやんだ。

 気持ちの悪い汗がにじみだし、鼓動が高鳴る中、突如として大声が響き渡った。


「ルシオ君っ!!」


「わぁっ!!」


 俺の名前を呼ぶ女性らしき声。そして現れる白衣をまとった女性の姿。そう、声の主は四方教授だった。彼女は怖い顔しながら腕を組み、仁王立ちで立っていた。


「ルシオ君、聞いてる?」


「は、はい、なんですか、っていうかどうして四方教授が?」


 そう、確か俺は昨日、空繰関連の騒動を解決して、クルリや哲心と平和なスクールライフを送ると決めて布団に入ったはず。

 

 それなのにここはどう見ても俺の部屋でもなければ俺が知っている場所でもない、そして目の前には四方教授がいる。


「私がここにいる理由なんてのはどうでもいいんです、それよりもルシオ君、聞いた話によると、特別授業をさぼって町中をほっつきまわってるという話を聞きましたが、それは本当ですか?」


「え、えーっと」


「本当ですかと聞いているんですよ」


「は、はい本当です」


 もはや尋問に近い何かを受けている俺は、なんとなく機嫌が悪い様子の四方教授を前に、下手にふるまうべきではないと直感で理解した。


「どうしてほっつき歩いて回ってたんですか?」


「それは、その色々と事情がありましてですね」


「事情ね、じゃあその事情とやらを話してもらえるかしら」


「え?」


「その事情を聴かせてくれる?」


「あぁ、その」


「あら、話せない事情でもあったの?」


「いや、そういうわけじゃないんですけど」


「じゃあ、お話しなさい」


「いや、でもなんか、おっかなくて話しづらいというかなんというか」


 そういうと、四方教授はむっとした表情をした。


「何がおっかないのルシオ君っ」


「いや、教授がっ」


「私が?何が?どこがおっかないの?」


「な、なんでもありませんっ」


 鬼、その名にふさわしい気迫と貫禄、研究者に思われる格好をした人がいったいどこでそんな気迫を身に付けたのだろう。

 そんなことを思いながら四方教授を見つめていると、彼女はあきれた様子でため息を一つ漏らした。


「もういいです、今からあなたに質問します」


「え?」


「ここ最近、ルシオ君はアクセサリーショップに入り浸り、友達と町中を散歩している姿が目撃されています、これは本当ですか?」


「え、なんで知ってるんですか?」


「いいから、これは本当ですか?」


「よ、よくご存じでいらっしゃいます四方教授」


「もちろんです、こう見えてもガーデンで教授をしていますし、それに何よりも舞子先生からより詳しくあなたの事について聞いています」


「舞子先生から?」


「そうよ、さぁこっちに来なさい舞子先生」


 現れたのは、ハンカチで目元をおさえた様子を見せる舞子先生だった。本当に泣いているかはわからないが、とにかく泣いている様子の舞子先生は鼻をぐずぐずさせていた。

 

「大丈夫よ舞子先生、あなたは悪くないわ」


「は、はい」


「悪いけど、ここ最近の彼の行動について話してくれるかしら?」 


「はい、私は真面目に必死に教鞭をふるっていたんです、何とかルシオ君の助けになるように、一日でも早くルシオ君がここに慣れてもらえるようにと、寝る間も惜しんで補修の事を考えてたんです。でも、その結果がこうなってしまった事に、私は非常に残念な思い出いっぱいです」


 これはあれだ、完全に俺が悪いってやつだ・・・・・・


「ま、舞子先生」


「可愛そうに、見てごらんなさい氷助君、あなたのために頑張っていた舞子先生は非常に悲しんでいます、この責任、どうとるつもり?」


 舞子先生はグスングスンと泣いた様子を見せ、四方教授は舞子先生を優しく抱きとめていた。


「いや、その、本当にすみませんでした」


「理由も告げずに全くの無断でさぼったそうね」


「そ、そうなります」


「この責任は重いわよ、分かってるのかしら」


「す、すみません」


「さっきから、ただただ謝ってばかりねルシオ君」


 いや、本当なら土下座でもしようかと思ったが、拘束されているがゆえに頭を下げるしかないのだからどうしようもない。


「すみません、でもこうすることしかできないんで」


「ねぇ、もう少し考えて物を話すべきよ「すみません」とか「ごめんなさい」とか、そんなありきたりな言葉ばかり使っていては、謝罪なんてものにはならないわよ、もう少し相手を思いやって、それなりの言葉を言ってみるとかできないの?」


 圧倒的に俺が悪い状況の中、確かに一辺倒な謝罪ばかりであることを見抜かれてしまったのか、四方教授はものすごく冷たい目で俺を見てきた。


 こんな時、頭が良ければいろんな言葉が出てきてそれなりん謝罪やらなんやらが思いつくのだが、俺にはそんな頭はない、だが頭に染み付いた最適な謝罪の言葉なら簡単に思いつく。


 そう、それは「なんでもする」という魔法の言葉だ。


 これを使えばどんだけ怒られててもひとまずなんを逃れることができる。そうして俺はその言葉を誠心誠意心を込めて口にすることにした。


「な、何でもしますから許してくださいっ」


「・・・・・・ん?」


 俺は今日一番の大声で声を出した。


 どうかこの謝罪が目の前にいる鬼のごとき教授のこころにひびいてくれることを願う。そう思いしばし頭を下げていると、しばらく沈黙が続いていることに気付いた。


 そんな沈黙にすぐさま顔を上げると、そこには不気味なほど笑顔の四方教授と舞子先生がいた。何をそんなに笑うことがあるのだろう、嫌な予感がごぼごぼと湧き上がってくる中、舞子先生はポケットから何かを取り出した。


「舞子先生、ちゃんととれてる?」


「とれてる?なんですかとれてるって、あの、四方教授と舞子先生?」


「ルシオ君は黙ってなさいっ」


「は、はい」


「それで?」


「バッチシです」


 舞子先生は取り出した小さな機械のようなモノをいじると、俺の声で「何でもします」という言葉がそっくりそのままリピートされていた。

 どうやら俺の言葉を録音されていたようでこれを使って何かやらせようとしているようだ。


「証拠ゲットね、というわけで、今からあなたの体を隅から隅まで調べさせてもらうわね」


「な、なんですか調べるって、あれ、なんか体が勝手に上を向いて」

 

 突如として聞こえてくる機械音と共に俺の視界は天井を向いた。


 そして、俺はあおむけの状態になり、わけもわからずボーっとしていると、四方教授が顔をのぞかせてきた。


「実はそれ、解剖台だったの」


「解剖台っ?」


「そうよ、解剖するときに使うわ」


「な、なんですかそれ、解剖とかやめてくださいよ」


「大丈夫よ、ルシオ君を解剖しようってんじゃないわ、私はただあなたの体の仕組みが知りたくて仕方がないのよ」


「そんな、俺は普通の人間ですよ、調べても何も面白くないですよ」


「あらあら何言ってるの、普通の人間がギフテッド判定なんてされるわけないでしょ」


「あ、あはは」


「大丈夫お金なら出すわ、そういう決まりだもの」


「な、なにいってるんですか、早く家に帰してくださいっ」


「ダメよ、何でもするって言ったじゃなぁい」


「そ、それは」

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