第4話

「もう高校生か〜」

 私は学校の入学式に向かう途中、並木道で満開に咲き誇る桜が風に吹かれてなびいている様子を立ち止まり呆然と眺めていた。

「やっほーっ!」

「早く走れよ! 置いてくぞっ!」

「ま、待ってよ〜」

 私の横をはしゃぎながら通り過ぎていく子供たち。


 そのとき、私の脳裏にはこの桜の並木道での子供時代の記憶が浮かび上がる。


◇数年前◇


「やっほーい!」

「二人とも早く来ないと置いていくよ!」

「ま、待ってよ〜二人とも!」

「う、うん」

 私は4人の友達と遊んでいた。でも、この頃はあまり体力がなくて、いつも皆に置いていかれていた。

「はぁ……はぁ……」

「しずくちゃん、大丈夫?」

「ちょっと……キツイかも……ハァ、ハァ……」

「もー、しずく体力なさすぎ!」

「早く行かないと今日限定のスパイシーホットヘビーデンジャラスデリシャススイートポテトが売り切れちゃうよっ!」

「ちょっと二人とも」

「私は大丈夫だから……先に行ってて」

「で、でも……」

「私はそこのベンチで休んでから行くよ」

「しずくもそう言ってんだし、行こ」

「そうだよ! 行こう!」

「分かったよ。しずくちゃん、戻ったらお菓子あげるからね」

 三人が駄菓子屋さんに向かって走って行ったのを見てから、私はベンチへと腰を下ろす。

「もっと体力つけないとな〜」



 空を見上げながらそんな独り言を呟いたとき──



「隣に座ってもいい?」

 声が聞こえて私は前を向いた。すると、そこには私と同じくらいの年齢の少女が居た。

「別にいいよ」

「ありがと」

 少女はそれを聞いて嬉しそうに隣に座ってきた。

「ねぇ、どうしてここに座ってるの?」

「ちょっと疲れたから」

「ふ〜ん」

 少女は考える素振りをしながら──

「それって……友達との付き合いが苦しいから疲れたってこと?」

「──っ!! ──何で分かったの?」

「う〜んとね〜なんとなく」

「なんとなく?」

「そう、なんとなく──あなたの表情を見たら、すぐ分かっちゃった」

「そんな顔に出てた?」

「少なくとも私以外だったら、気付かなかったと思う──」

 少女は言葉を続ける。

「あと、分かりにくかったけど何だかあなたは楽しそうじゃなかった……」

「…………」

 私は確かにこの子の言う通り、楽しくはなかった。友達を作ることに対しての意味が分からなかったからだ。

 しかし、私には友達がいる。それは何故か。親が『友達を作りなさい』って言っていたから作っただけ。

 そこに自分の意思ではないため、面白くも楽しくもない。私は適当に周りに合わせていただけ。

 だから、「楽しい」が分からない。

 私の心は常に真っ白だった。他人という名の友達の色を意図的にその場に合わせて染めていた。

 自分の色というものがなかったのだ。


 その後私たちはどういうわけか友達になった。


 私はただ、また友達が一人出来たと初めはそう思っていた。

 でも今、思えば私にとってはそれが人生の転機だった気がする。

 少女は私の人生という白いものに色をつけて鮮やかにしてくれた。

 昔の記憶だから名前と顔までは思い出せないが、友達になるとき確かこう言っていた気がする。


◇現在◇


「あ、あの──」

 そして、誰かに声をかけられ私は現実に引き戻される。

 あー、そうそう。確か昔もこんな感じに──


「私とお友達になりませんか?」


 って言われたんだっけ?

 その声の主は私と同じ制服を着た少女だった。


 これが私、萬屋よろずや雫と栗花落つゆり沙苗の出会いだった。

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スイート・ハッピーライフ 小鳥遊 マロ @mophuline

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