第18話 午砲
◆ ◇ ◆
STORY展開が遅いというご意見をいただきました。WEB連載投稿ならその通りかと考えます。
描写やサイドストーリを避けて物語の進行を優先するようにしてみます。
改訂する機会があれば補完します。
◆ ◇ ◆
使われている通信網は旧時代の遺物だ。
時折断線などで補修が必要になるが、どこがどう繋がっているのか全体を知る者はいない。
遮断するデメリットが大きく、覇権主義を抱くザオゾウ共和国でも通信の物理的な切断はされてこなかった。
聖母ケイラとメーティス女王の会談から二十九日後。
その通信網に流れた映像が、世界を一変させた。
「こんな……」
「ひでぇ」
エメテラが声を震わせ、ヒューロゥは低く呻く。
どこかの工作員が流したザオゾウ共和国内部の映像は、見る人の心に強い感情を抱かせずにはいられないものだった。
◆ ◇ ◆
「かかっといで、ボウヤ」
「はぁ……ふ、うぅっ……」
古代にあったと言われる円形闘技場のようなものかもしれない。
遥か高くそびえるコンクリートの壁はたとえ騎士でも越えることはできない高さで、観覧席には強化ガラスがはめ込まれている。
その中心で向き合う女と少年は、動きやすい簡素な白い衣類を身に着けているだけ。武器は手にしていない。
「この指輪を奪って装主になるチャンスさ。頑張りな」
「うぁぁぁ!」
目を血走らせて駆け出した少年の速度は、騎士としても異常だった。
過剰な力で踏み込んだせいで
正気を失う危険な薬物で極度の興奮状態にして戦わせている。
「がァぁ‼」
「いいねぇ!」
ただし、単調。直線。
シゼドールのイファンシが対物ライフルの弾丸を打ち払ったように、砲弾のごとき少年の突撃をリジィは片手で横にずらす。
勢いで止まれない少年は、石材と自分の足の肉を削りながらリジィのかなり後方まで進んで向き直った。
石材の壁に手を着き、半身のリジィに向けて再び飛びかかる。
数十キロの砲弾のようなものだ。下手に当たれば騎士とて無事ではすまない。
「そぉんなに熱く迫られちゃあ」
今度は簡単に受け流されないよう両手を広げて掴みかかる少年に、リジィはニタァと笑って迎え撃つ。
「こっちも興奮しちゃうじゃないのさ」
圧殺する勢いで抱きしめようとした少年の腕から、するりと女の体が消える。
下に滑り込む。
かちあげるリジィの掌底を膝で防ぎ、宙に浮かされながらくるくると体を回転させて体勢を立て直した少年。
その目の前に、既にリジィが追いすがっていた。
「あぁぁ!?」
這いつくばる少年の顔を狙う蹴りに対して、いつ掴んでいたのか砕けた石材を握りしめた右手を叩きつける。
「だぁ!」
「つっ」
さすがに石材は少々硬い。騎士のリジィでも痛みはある。
わずかに顔をしかめながら、その痛みさえ楽しむようにリジィの口元が歪んだ。
「かわいいねぇ本当に!」
「うあ……っ」
握った石の欠片は砕け散り、少年の指も三本反対に折れ曲がる。
やぶれかぶれに掴もうとした左腕を取られ、ごきゅりと音を立てながら少年の体が半回転して床に叩きつけられた。
「がふ」
「あはぁっ!」
運動しやすい簡易な衣服がめくれ、少年の腹があらわになる。
その下の股間は、興奮剤のせいか服の上からでもわかるほど形を強調してしまっていて。
「け、は……はぶ……」
叩きつけられ息絶え絶えの少年が震えるたびに、股間もぴく、ぷるんと震える。
リジィは先ほど石を蹴った自分の脛の血を片手で拭い、咳き込み唾を垂らす少年の口に無理やりねじ込んだ。
「頑張ったじゃあないのさ、ご褒美だ」
「ぶ……うべ……っ」
「さあ、いい子はネンネのお時間だねぇ」
一発、額に拳を入れた。
殺すほどの力ではない。ただ目が回るように、リジィの拳と床の石材の間で少年の頭が揺れる。
「冥途の土産に、憧れのリジィお姉さんがイイコトしてやるよ。はっ! あはははっ」
虚ろな目で痙攣する少年のズボンを脱がすと、リジィはべろぉりと舌で自分の赤い唇を嘗め回した。
少年の命が消える瞬間だったのか。
リジィがひときわ大きく腰を揺らすと、少年だったものは緑色の液体状になり四散した。
他の装主と別の候補生らしい少年少女とのやりとりまで全て見た者は、エオトニア全国民でも少数だったろう。
各町の巡警が、テレビを消すように町中にスピーカーで発信して回ったから。
そうでなくとも、まともな感性の人間なら誰も長時間直視できるものではない。
ザオゾウ討つべし。
暗殺未遂事件から燻っていた世論が燃え広がるのを止めることは、もう誰にもできなかった。
◆ ◇ ◆
人は錆び、鉄は歌う。 大洲やっとこ @ostksh
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