霊感

とらまる

霊感

新宿歌舞伎町の片隅にある、某バー

いつからか定かではないのだが

そこは怪談話が好きな者達が集まる、という

マニアにとっては憩いの場となっていた


マスターは特別怪談が好きなわけではない

特に怪談師を呼んでイベントをやっているわけでもない

いつから始まったのかも分からない


ただ客達が仲間と酒を飲みながら

静かに怪談を語り合っている、という空間のみ


そんな空気感がたまらない、との口コミにより

いつしか怪談好きな者達が多く集うようになってしまったのである


そして今日もひとり、またひとりと

怪談を語りたくてしょうがない人達がそのバーを訪れていた




ある夜

T君とK君2人がそのバーを訪れた


彼等二人も怪談好き

このバーに来てそれぞれがネット等で聞いた怪談話を喋り合うことに

見事にはまってしまい

かれこれ5回目くらいの訪店だったらしい


2人掛けのテーブル席に座り

ウイスキーの水割りを頼み

早速2人は持ち寄った怪談を話し始めた


「うわっ、マジ」

「それ、ヤバいんじゃない?」


そんな風に静かに盛り上がっていたところ

カウンターに座っていた一人の男性がツカツカと歩み寄って来た


年は50代くらいだろうか

中肉中背で髪は所々に白髪が目立つ

ヨレヨレの紺のジャケットを羽織ってかなり酔っ払ってる雰囲気であった


「なぁ、君達、さっきから怪談話しているけど、君達には幽霊見えるのか?」


唐突にそう話し掛けられたT君とK君

ちょっとまごついたが、こう返答した


「いや、僕達は霊感無いみたいで、見たことないんですよ」


「そうなのか?それなのに幽霊とか信じているのか?俺にはそれが分からない。実際見たことがないものをどうやって信じる、というのだ?俺には理解出来んよ。俺には霊感なんて無いからな。だから幽霊なんて信じてねぇ。ここじゃ怪談話をそこら中でしているけれども、俺にはサッパリ面白みが分からんねぇ。こういう飲み屋では下ネタで盛り上がるのが一番なんだよ。ハッハッハッ!そう思わねえか?ハッハッハッ!

さぁ、明子、もう帰るぞ。こっち来い。おぉ、こいつ、明子。俺の愛人。ハッハッハッ!」


やや呂律の回らぬ口調でこう一気に話すと男はヨロヨロと店を出て行った



「何?あの人?」

「かなり酔っ払っていたよなぁ」

「あぁ。下ネタ好きならキャバクラ行けば良いのにな」

「そうだよな。でもさ、あの人、愛人の紹介なんてしていたけど、女なんていなかったよな」

「そうそう。俺も変なこと言うなぁ、と思っていたんだよ。・・・もしかしたらその女性、幽霊なんじゃないの?」

「だったりしてな!でもあんなに酔っ払っていたんじゃ本当かどうか分からんよ」

「かもしれないけれど、もし幽霊だったらあのおじさん、霊感あるんじゃないの?」

「確かに。本人は気付いていないだけで!今頃その女幽霊と街をほっつき歩いているのかなぁ?」

「かもしれん!幽霊が愛人・・・恐えぇ~」


そんな怪異(?)な体験を目撃した二人

その後はまた怪談話をお互い数話喋り終えて、お会計をすることにした


「ありがとうございました」

「また来ますね。あっ、そう言えばあのカウンターに座って俺達に話し掛けて来た男性って、ここの常連さんじゃないですよね。何だか怪談嫌いみたいだったし」

「は?カウンターの男性のお客様?」

「そうそう。50代くらいのおじさん。かなり酔っ払っていたみたいで」

「いやいや。今日はカウンターで飲んでいたお客様はいませんよ。皆テーブル席を使われていましたから」

「えっ・・・そんなバカな。あのヨレヨレの紺のジャケット着ていたおじさんだよ」

「いえ、そんな方はいらっしゃっていませんけれども・・・」




霊感は無い、と思っていたT君とK君

どうやら初めての体験だったようである




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霊感 とらまる @major77

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