第9話 禁術使い、神力を使う

「———《風刃》《風弾》」

「グギャッ!?」

「ブヒッ!?」


 モンスターの初戦闘から数十分が過ぎ、俺はゴブリンだけでなくオークにまで対象を広げていた。

 戦術としては完治の難しい不可視の風魔術を主体として相手の眉間を狙ったり、首を刎ねたりしている。


 そのお陰で狩りの効率が上がり、急速に魔力を消費していた。

 普通ならここで魔力欠乏症になるが、俺は悪魔———それも悪魔の中でも最上級の悪魔との契約者。

 全て無くなっても一瞬にして回復してもらえるので気にしなくてもいい。


 これが前世の時もやっていた『契約者式魔力増強法』である。


 しかし———


「———ぐぅっ!」

「ご主人様!?」


 精神と身体への負担は今までの比にならない。

 全身からミシミシと骨が軋む音が聞こえ、頭痛に眩暈、吐き気や目の霞などの様々なデバフが掛かってしまう。

 

 因みに骨が軋むのは、腹あたりにある魔力溜まりが広がっているから、と言うのが定説だ。

 魔力溜まりが1ミリ広がれば、魔力量は2倍になると言われているが、広がるのにも限度がある。

 そこで前世の俺は、更に心臓、両手足と全部に1年ほど魔力を一切動かさずに停止させて新たな魔力溜まりを全部で6個に分けていた。


 その時の方が断然痛かったので、普通ならこの時点で魔術を使うことは不可能だが、この様な経験からメンタルだけは強いお陰で全く問題ない。

 何ならまだ余裕があるくらいだ。


 痛みは我慢すれば済むし、吐き気や眩暈も目を閉じて身体を動かさなければ落ち着く。


「ちょっ、ご主人様!? どうしてその場で突っ立って目まで閉じているの!?」

「まぁ見ていろ」


 一先ず魔力を空気中に分散させて地形と敵を感知。

 モンスターの魔力は濁っており、魔力が澄んでいる植物よりもとても分かり易い。


 敵の数はオークが3にゴブリンが5。


 因みに人間は人それぞれで、物凄く澄んでいる者も居れば、モンスター並みに澱んでいる者もいる。

 まぁ大抵は自身の得意な属性と合致しているが、偶に小根が腐った腐れ外道とかは魔力の質が変わったりもする。

 悪魔は本当に意外だが、植物と同じ様に全く濁りがない。

 

 さて、吐き気がそろそろヤバくなってきたので、とうとう魔術名も言わずに完全無詠唱で魔術———《風刃》を発動させると、感知した敵を追尾する効果を付与し次々と飛ばす。

 しかし俺の予想が少し狂い、どのモンスターも避けることなく1発で胴体と首が無き別れした。


 俺はこれで粗方片付いたか……と気を抜こうとした瞬間———自分が気付かない内に全方位をオークとゴブリンに包囲された挙句、ゴブリンジェネラルとエリートオークの気配まで感知した。


「うぷっ……くそッ、いつの間に……リリス、魔力」

「……もうやめなさい。これ以上はご主人様が危ないわ」


 まさかのリリスが魔力譲渡拒否してきた。

 しかしその理由が俺の身体を心配してのことだからか、罰は下らない。

 

『リリス、頼む。もう増援が来ているんだ』

「嫌よ。これ以上はご主人様の身体への負担が大き過ぎるわ。身体の成長に欠陥が生まれる」


 『もしもの時は私が助けるし』といって俺が頼んでも断固として拒否するリリス。

 此処で契約の強制力を使ってもいいが、こんなことで彼女には使いたくないし傷付けたくない。

 リリスは俺も最後まで戦ってくれたからな。

 まぁ最後は俺が無理矢理魔界に帰したが。


『……ふぅ……ならいい。どうせだ。今日使ってみるのも悪くない』

「何をするつもり———ってまさか!?」


 リリスは俺の狙いを理解した途端、驚愕に目を見開く。

 そんなリリスにニヤリと笑ってみせてから意識を集中させる。


 意識は心臓へと移り、今まで1度も動かしていなかった神力を心臓から引き出す。

 数時間前に一度神力を体に流された事によって、神力が魔力回路でも通る事が分かったので、魔力回路を流してみる。


「……っ……」

 

 すると、多少の不快感と違和感があるものの、思った以上にスムーズに動いた。

 現在身体を魔力よりも多く占める神力を使えば、ある禁術が使えるのだ。


「———我、神に準ずる者なり。そのめいに従い、我が敵を討ち滅ぼせ———」


 その名も———



「———《地母神の怒り》」




 瞬間———俺の周りの地面から巨大で太い幹がまるで生き物の様に現れてモンスター達を叩き、突き刺し、投げ飛ばす。

 

 嘗てこれを発明した魔術師は、神の力を手に入れようとしていた。

 しかし魔力では神の力を手に入れることは出来ず、結果として周りの生き物という生き物を殺す制御不能な魔術が出来上がってしまった。


 ———では、それを神の力で発動させればどうなるのか?


 俺はこの体に神力が宿っていると知った時からずっとそれを考えていた。

 しかし、俺の前世からのプライドと忌諱感と嫌悪が試すことを邪魔をしていた。

 だが、こうして使わざるを得なくなった今だかこそ試すことに決めたのである。


 そして結果は———


「はははっ……馬鹿な神だ……! 下級神を完全に手懐ける事が出来たぞ……!」


 見事完璧に制御する事が出来た。

 更に、本来であればそれ相応の代償があるが、神力を使ったお陰なのか分からないが、全く代償が支払われない。

 まぁその代わり魔力の2倍ほどの神力を使ってしまったが。

 

 それでも僅か数十秒でゴブリンジェネラルもエリートオークも神の餌食となり、その命を散らした。


「ふぅ……だが……まだまだ改良の余地があり、そう……だ……」

「———ご主人様!!」


 俺はリリスの切羽詰まった声を聴きながら意識を暗転させた。


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