第8話 禁術使い、モンスターを討伐する
「…………さい…………なさい……———起きなさいよご主人様!!」
「———はっ!?」
俺はリリスの呼び掛けで目を覚ます。
急いで辺りを見渡すと、心配そうに眉を寄せるリリス以外の人は見当たらない。
あのクソ女神の使徒も消えている様だ。
『……あのクソ女の使徒は?』
「帰ったわよ。ご主人様が気絶した直ぐ後にね。1発殴ろうかと思ったけど、やめておいたわ」
リリスだったら1発でも余裕でぶっ殺しそうだから恐ろしい。
悪魔は全てにおいて人間よりも遥かに優れているのだ。
まぁそれは神にも当てはまるのだが。
「それにしてもご主人様って未来でも見えてるの? どうして予め記憶消去されてもいい様に記憶復元の魔術を掛けれたのよ?」
『まぁ……あの性悪女の考えそうなことだからな。流石に本当に父親にやられるとは思わなかったが』
そう———俺はリリスに時間差で発動する記憶復元の魔術を掛けて貰っていた。
別に後からでもいいのだが、それだと一度消えたものを前後の記憶から大体の記憶を植え付けると言った感じの魔術なので、どうしても完璧に記憶を戻せない。
しかし俺が開発したこの時間差の記憶復元魔術は、掛けた瞬間からの記憶をこと細やかに記録してから、消えた記憶をその記録から復元する。
そのため完璧に記憶を復元することが出来、前世ではそのあまりの有能さに、仲間達から『絶対に誰にも言うな』と厳重に注意されてしまった。
こうして記憶は戻ったのだが———
『……魔力の7割が封印されているな』
正確に言えば、5割の魔力が『魔力溜まり』に固定されて動かせない様になっている。
本来は10割全てのはずだったが、リリスが頑張ってくれたらしい。
しかしリリスは封印を完全に解けなかったことを恥じている様で、苦々しい表情で俯いていた。
『ごめんなさいご主人様……これだけしか元に戻せなくて……』
『いやリリスのお陰で半分も使えるんだ。それに、これだけの魔力があればその内自分で解除出来る』
仮にこれがリリスの身体なら、リリスは一瞬で封印を解いていただろう。
そして俺の身体が成長期を終えて魔力も全盛期の半分くらいあればまた違った結果になっていただろう。
しかし、如何せん俺の身体はまだまだ第一次成長期も終わっていない発達途中の状態。
そのため身体が小さく魔力が少なくて干渉が難しかったのだろう。
『まぁ考えていてもしょうがない。魔力はこれからまた増やせばいい。生憎俺の身体はまだ2歳だからな———ってことでリリス』
「何?」
『1つお願いがあるんだが———』
俺はそこで、リリスに1つのお願いをした。
「……大丈夫なの? 悪魔の私が言うのもなんだけど、ご主人様のお母様心配しないかしら」
『大丈夫だろう。バレないためにリリスが幻惑魔法を部屋全体に掛けてくれたしな』
悪魔は一応魔術も使えるが、基本的には魔法という魔術の上位互換の力を使う。
だがそれは元素系と種族固有の魔法以外は存在しなく、先程の様な記憶復元の様な者は弱者である人間が考えたものだ。
まぁ悪魔が使う幻惑魔法をモチーフにしたのだろうが。
「そうじゃないわ。ご主人様は2歳なのよ? ———モンスターを相手にして大丈夫なのかってことよ」
リリスが『幾らご主人様でも無理では?』と訝しげな表情を浮かべているが、それを口にするつもりはないらしい。
あんなにタメ口で話しているが、本来主従契約すると主人でない方は敬語を強制され、
『———まぁ少し見ていろ』
何故モンスター討伐に来たかと言うと、理由はただ1つ。
———魔力をより消費して魔力量成長速度を大幅に上げるためだ。
俺はわざと弱々しい魔力を空気中に分散する様に流す。
すると、僅か数分足らずで2匹のゴブリンが現れた。
「グギャッ!」
「ギャギャギャ!」
2匹には悪魔のリリスは生物としての格が違うために見えておらず、小さな弱々しい人間の子供しか見えていないだろう。
そして自分が上だと分かると俺を食べようとニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべて近づいてくる。
だが———
「したのはお前らだ———《風刃》」
俺は自らの声帯と舌に魔力を纏わせてしっかりと発動できる様に滑舌を良くした後で、今世初の魔術を発動させる。
前世の100分の1以下の規模の不可視の風の刃が、1体のゴブリンの頭を刎ねた。
その瞬間に血が噴き出る。
「グギャ……?」
首を刎ねられたゴブリンを見て、状況を理解出来ないゴブリンが動きを停止させた。
その隙に俺再び《風刃》を発動させてもう1体のゴブリンの首も刎ねる。
俺は戦闘が終わったことを確認すると、唖然としたリリスに向けてドヤ顔で言い放つ。
『この程度造作も無い』
久しぶりの魔術発動は物凄く気持ちが良かった。
しかし、やはりその威力は脆弱だったので、まだまだ修行しなければならないが。
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