転生先のシナリオリメイクは可能ですか?

彩月ゆね

第1話 前世の記憶を取り戻した!

「次のテーマは異世界転生モノですか。……流行りに乗るのはいいけれど、ありきたりなものになっちゃったらNGなんですよね?」

「まぁまぁそう食わず嫌いせずに。やってみようよ。今回、シナリオの担当はあんただけじゃないから安心しなさい」

「へ? そうなんですか?」

「今回はね~~」


…………あの時。

先輩の言う通りに新たに加わったあのライターともうちょっと詰めた話が出来れば、もっと私の中でマシな作品になっていたのかもしれないし、もしかしたら私がこうならずに済んだかもしれない。


「そんなことをまさか死んで転生してから思い出すなんてなぁ……」


今の私は、ベアトリス・フォン・ラングリット。

エルデニア王国内でも有力の貴族、ラングリット公爵家の次女で、乙女ゲーム『フェイト オブ ラバーズ』の悪役令嬢キャラクターだ。


どうしてそんなことを知っているかって?

それはもちろん、私がこのゲームについうっかり転生したからである。

いや、うっかりでもないんだけど。


私の前世……転生前は、ゲーム会社でクリエイター職についていた「佐東 由夏」という。

(年齢は、28歳……ってこれ言う必要はあるのか!? いや、ないよね!?)


ゲーム業界あるあるのリリース直前の残業などが原因で寝不足になっていた時に、駅の階段から落ちてしまったのだ。これだと、どう見てもうっかりか……。


私が前世の記憶を思い出してしまった時はこんな感じ。


* * *


「あれ、私は……どうして、ベッドに?」


私、ベアトリス・フォン・ラングリットは豪華絢爛なベッドの上で目が覚めた。とても頭が混乱している。


「この部屋が、私の部屋? うそ、だって……はぅっ!?」


ズキズキと痛む頭を抑えてむくりと起き上がる。


「痛い……な、何このフリル袖は?」


たっぷりレースがあしらわれたふりっふりのピンク色の袖にびっくりした私は思わずベッドの上に積まれた布団をばさりと跳ね上げると、そこには腕の部分と同じピンク色のネグリジェが。


ベッドから飛び降り目に入った鏡に身体を映す。

そこには、想像していたよりも小さな手足をした華奢な身体つきの幼女がいた。

明るい栗色の髪。長さはセミロングでふわふわとした癖っ毛になっている。


あら、ずいぶんと可愛い幼女じゃないの……いやいや、そうではなく。


「な、なんでこんなことに!?」


私は鏡に向かって大声で叫んだ。

そう、外見は3歳ぐらい、だが中身はただの20代女性のものである。


「はっ! これってまさかラノベやアニメで話題の『異世界転生』ってヤツか!?」


「お嬢様? お嬢様!? お目覚めになられましたか!?」

「お嬢様!?」


* * *


今にして思えば、このまま前世の記憶なんて思い出さなければ、ベアトリス的にはよかったのかもしれない。

でも思い出さなければ出さなければで、今のベアトリスはもうすぐ終わりを迎える。


なぜならベアトリスは乙女ゲーム『フェイト オブ ラバーズ』の悪役令嬢キャラクターだから。


前世の記憶と共に、ゲームの内容を思い出した私は「はてさてどうしたものか」と悩んだ。



そう。悪役令嬢には『断罪ルート』というものがある。


『断罪ルート』とは言っても、もともとの乙女ゲームに悪役令嬢はつきものでは無かったし、最近できた流行りのジャンルだ。


「(私が遊んでいた乙女ゲームにそんなルート無かったしなぁ……)」


というか、そもそもライバルの女キャラとかほぼいなかったし……!!


私がかつてやっていた乙女ゲームの話はさておき、記憶を取り戻した当時の私は自分がこのままゲームのシナリオ通りだと死ぬもしくは結構ヤバめな人生を送るというのがわかっていたので、それを回避するために動くことにした。


* * *


先ずやったこと、それは。


「レオン殿下! いきなりで大変失礼ですが、わたくしとの婚約を解消してくださいませ!」


そう、悪役令嬢ベアトリスの婚約者でこの国の第二王子『レオンハルト』との婚約破棄イベントの前倒しだ。


考え着いたときは思わず「なんでだよ!」とセルフツッコミを入れたが、どう考えてもこれしか方法が無かったのだ。だってその当時のベアトリスは6歳だったから。


だが。


「ベアとの婚約を解消? なんで? イヤだよ?」


あっけなく玉砕した。


理由を言わずに婚約破棄を申し出た私にも、もちろん敗因はある。


理由を言わずというより、言えないのだ。

なぜ言うことが出来ないのか。


「私はこの先自分がどうなるのかわかるからです」なんて言えば、普通に気味悪がられはするものの、ただの子供の戯れと話を流されるのがほぼだ。だがこの国、いや、このゲームではそうはいかない。


婚約破棄を申し出た時もだった。


「レオンハルト様、ベアトリス様。村で『転生者』が出たとの報告が……」

「わかった。急ぎ父上に報告する。ベア、早く屋敷に戻れ。さっきのでお前が『転生者』だと思われたら大変だぞ、言葉には気を付けろ」

「は、はい……」


このエルデニア王国では『転生者』という存在はともかく嫌われている。

見つかり次第『処分』という名目上で『国外追放』、最悪の場合は『処刑』されるからだ。

なぜそこまでになるのか、「『転生者』は前世の記憶を用いて国に混乱を齎し、破滅へと導く」そう言われているからだ。


これはあくまでゲーム内の設定として当時の私たちが作ったものだったのだが、まさかこんな形で目のあたりにするとは思いもしなかった。



レオンハルト殿下に対してその後もなんとか婚約破棄を願い出ては却下されつつを繰り返し、16歳になってしまった。

16歳は社交界デビュー。そして正式に王子の婚約者となる場だ。

そしてベアトリスの断罪ルートが始まる第一歩でもある。


今日はその社交界デビュー前日の晩。


「(もうどうしようもないじゃんかぁぁぁ!)」


私の心の叫びを掻き消すようにゴーン! という屋敷に鳴り響く巨大時計の音が時間を知らせる。


日付、変わっちゃった……。

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