傘は持たない

夕日ゆうや

傘は持たない

 傘は持たないで高校に向かう俺。

 今日は降水確率は60%だ。

 降るか、降らないかは、賭けでもある。

 でも俺は傘を持つのが嫌いだ。煩わしい。

 そんな放課後。

「げ。めっちゃ降っているじゃないか……」

 雷雲が空で渦を巻き、雨を散らしている。

 ザーザーと降りしきる雨。

 困ったように下駄箱で立ち尽くす俺。

 これは雨に濡れてでも行くべきか。

「ほら、風成かざなりくん。傘だよ!」

 同級生の、クラスで三番目に可愛い黒糖こくとうあられが、俺に話しかけてくる。

「そ、その! 迷惑じゃなきゃ、一緒に帰ろ?」

「え。でも、悪いだろ。相合い傘、だぞ?」

「気にしないよ! むしろ、見せつけたい」

「え。なんだって?」

 尻すぼみになった霰の声は聞き取れなかった。

「なんでもなーい♪ 一緒にいこ?」

「あ、ああ……」

 俺はその可愛さと謎の威圧感に従い、相合い傘を受け入れる。

 背が高い俺が傘を持ち、片道10分の距離を歩く。

「霰は家、近いのか?」

「うん! ここから20分くらい」

「けっこう歩くな」

「ダイエットにいいし!」

 女の子らしい言葉に苦笑を浮かべる俺。

「ま、霰は気にする必要なさそうだが」

 霰の身体を見ると全体的に痩せ細っており、骨張っている。胸もお尻も細いし、ちゃんと食べているのか気になる。

「な、何よ。人をじろじろとみて、いやらしい」

「あ、いや、すまん」

「まあ、いいけど!」

 どこかテンションの高い霰。

「ここが俺の家だ」

「あーあ。もうついちゃった……」

「まあ、霰との会話、楽しかったし」

 俺も素直に自分の気持ちを吐露した。

 こんな時間が一生続けばいいのに。

 なら、傘はもたない方がいいな。

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傘は持たない 夕日ゆうや @PT03wing

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