第3話挨拶は配信で⁉(2)
「じゃあ、行こうか」
「いつでも」
重々しい雰囲気の中始まった、クイズ対決。ジャンルは様々で知らない問題も出てくるかもしれないということでネット検索も許可された。
制限時間は1分。もちろん桃花ちゃんの配信画面を見るのは禁止。最後にどっちの解答が正解に近いかをリスナーが決める。
「じゃあ、みんなお願い」
《アーノ・11.11!?・・。じゃ》
《パンがないは。。?・。1》
《私の誕生m》
だけど、沢山のリスナーさんが一斉にコメントした関係ですぐに流れてしまい全文を読むことができなくなっていた。
「あえっ?」
「おお、すごっ」
コメントが凄い勢いで流れているのを見ても薄い感想しか出てこないけど、冬華ちゃんなら大丈夫でしょ。なんたって大人気配信者なんだから。
「あのッ、これ、どうし」
繋いでいる通話の向こうからカタカタとキーボードを押す音が聞こえるのと同時に、本当に焦っているのかハァハァと吐息も聞こえてくる。
「冬華ちゃん?」
「待って、ごめんちょっとだけ待って。今なんとかするから」
《これは……》
《もしかして》
《事故った?》
チラッと見えた言葉。それは事故。私でもこの言葉の意味はわかる。この先に待っているのは炎上。世間にさらされて笑いものにされ配信者人生のおしまい。
あの時とは規模が違うとはいえ、された側はたとえ故意的に炎上させられたとしても心がやんでしまうことに変わりはない。
まあ、今回に至っては誰が悪いとかはなにもないんだけどね。
ただ周りがそうとらえるとは限らない。
「えっと、調整してるからもう少しだけ待っててほしいな」
冬華ちゃんが頑張ってるのに何もできない自分がもどかしい。
これじゃあ、あのとき見てるだけで何もしなかったやつらと同じだ。
だけど私にはこの場面をどうにかするような技術もないし会話で盛り上げることもできない。
「えっと……」
《これ終わりだろw》
《頑張れ!》
《これ泣くんじゃね》
やっぱりというか、どうしても冬華ちゃんのことをよく思っていない人たちが出てきてしまい、私が話そうとしてもそのコメントに飲み込まれてしまう。
「ごめん。ごめんねますみん」
「ちょっと諦めちゃダメだって」
ここで泣いたらほんとに炎上しちゃうから。
現状配信内ではネガティブというか悪い意見のほうが多い。
こんな時ばかりゆっくり流れるコメントに焦りを感じながら宥めるために声をかける。
「ひっく……ごめん。ごべんね」
ここで泣いてしまった。泣いてしまったのだ。配信という全世界に公開されている中で泣き出した。
こうなると喜ぶのは冬華ちゃんを炎上させたい人たちだけ。
このあと配信内で泣いたということが拡散されて視聴者がどんどん増えていくが、私にはどうすることもできない。
「大丈夫だから、あとは任せて」
おどおどしながら否定的なコメントを見るだけになっていると、冬華ちゃんの通話から別の女の人の声が聞こえてくる。
「みなさん、本日は申し訳ありませんでした。後日別の枠を取らせていただきます」
「あっ……」
配信画面が閉じられて静寂が訪れる。
終わってよかったと思うとともに何もできなかった後悔が湧き上がってくる。
「ますみんさん、この度は申し訳ありませんでした。この子には良く言い聞かせておきます」
丁寧に謝る女の人の裏では「ひっく、ぐす」とすすり泣く冬華ちゃんの声が聞こえた。
「私は大丈夫なので冬華ちゃんのケアを……」
それならせめて直接会って謝罪をさせてほしいとのことだったが、現状ニートの私の家に来てもらうわけにはいかない。
謝る謝らなくていいという交渉の末、私がそちらに行くということで決着がついた。
通話を切った後に今回の出来事を振り返ってみる。
「なにもできなかった……」
それは私の責任でもある。任せっきりで見てただけ。謝らないといけないのは私の方だ。
シェアハウス〜廃人の巣窟〜 あおいゆっきー @aoiyukki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。シェアハウス〜廃人の巣窟〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます