第3話挨拶は配信で⁉

「……」


 私を紹介すると言った次の日、なんと私は今現在だいたい1万人位に見られています。あっ、1万人超えた。


「ということでみんな久しぶりー! 冬の空に咲く桃の花、冬空桃花だよ」


《やったー》

《どういうことだよ》

《ともだちでーきたー》


 私に共有している画面の向こうで体をぶんぶんと横に揺らしながら聞いたことのない明るい声で始めた冬華ちゃん。いったいこれはどういうことだってばよ。


「サムネでわかってる人もいると思うけど、今日はいつも練習に付き合ってくれてる私の友達を紹介しちゃうよー!」


「……フッ」


 もう遅いか。私はできる限りの抵抗はしたさ。ちょっと待って。配信は、人前は聞いてないって。


 でも冬華ちゃんが、ママが私に任せてって言うから仕方なくちょっとだけなら……いいよ。って許可しちゃったんだ。でも1万人は予想外だよ。


《イェーーーイ》

《うちのボッチに友達が……》

《お兄ちゃん嬉しいよ》

《いくら払ったの?》


 私の諦めをよそに盛り上がっていくリスナーたち。どんどん流れていくコメントを早いなぁ、ジェットコースターだ、流れ星だぁと眺めていると唐突なキラーパス。


「私がボッチとかいう間違った話が出てるけどほんとの友達だよ! ねっ」


「えっ、あっ、あの」


 私はどうすればいいの? 助けを求めて冬華ちゃんにアイコンタクトを送る。


「あー、初めてで緊張してるね。大丈夫! 私に任せて」


「冬華ちゃん」


 ああ、駄目だなにもわかってない。でも優しい。手伝うって言った内容もまともにこなせない私を助けてくれるなんて。


《やっぱりビジネスフレンド?》

《だよね。桃花に友達ができるわけない》

《そうだよ。俺らにだってできないんだから》

《そんなことより、今ちょっとだけしゃべったよね》


 あれ? このリスナーとかいうのもしかして私と同類か? 友達が出来ないボッチがいたよね! 同類ならなにもビビらなくても、私には冬華ちゃんという巨大な盾がいるんだから。


「フッフッフ、ますみんは私の愛する友人であり、ゲーム相手でもあるのだ。いやー毎晩お世話になってます」


「あっいえ、こちらこそ冬華ちゃんが大人気配信者様だったなんて露ほども知らず今までのご無礼をお許しください」


 平伏、平伏だ。陽なる者を盾として利用しようとするなんて世界の最底辺として軽蔑されている我々ニートはそんな度胸は持ち合わせていない。


 今はこの台風が過ぎ去るのをじっと待とう。


「ちょ、なに言ってんの。いつものようにバチバチに殺り合おうよ」


 この人なに言ってんの⁉ そんなことしたらファンの人に私が殺られるって。


「いやこいつが言ってんのは全てが嘘っぱちで、いつもは仲良く殺ってるから。誤解しないでね?」


《こいつって……ケンカ売ってくねぇ》

《一応140万人越えなのに》

《これは期待できますね》

《この子面白そう》


「ますみん……」


「ひっ!」


 やややヤバい、140万人様を怒らせたかもしれない。


「私のリスナーを奪うとはやるね。でも負けないよ」


「わっ、私だって(2万人を越えそうな視聴者の圧力に)負けない!」


 冬華ちゃんの負けない宣言に私も返してしまったせいで、これからゲーム勝負が決まってしまった。負けた方には罰ゲームが贈呈されるらしい。


 挨拶だけって言ってたのに……。


 でもほんとに負けられない。勝つか負けるかのヒリヒリの勝負に持っていかれたら晩御飯がリバースしちゃう。


 リスナー出題クイズ、私の精神的安定のために速攻で勝って終わらせて見せる。

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