第2話私に友達

「……相変わらずだね、ますみん」


「あっ……」


 意気揚々と選択したその場所は、リスポーン地点からはるか遠く、とある秘境の山中だった。


 ピューンと勢いよく、これが結果だとばかりに無残にも全て削られる私のポイント。

 始めは笑っていた私たちだが、一方的な試合結果をただ呆然と眺めるしかなかった。


「グスン……」


 なんで、毎回こうなるのぉ。私だって私だって頑張ってるのにぃ。


「ウああああ~」


 みっともないってわかってるよ。20になった女がガチ泣きしてたらそら怖いよ。でも何回やっても勝てないんだもん。

 都会にリスポーンしてたら私の無双劇が、冬華ちゃんなんて一瞬で粉砕して褒めてもらいたかったのに。


「ほら、ウチが強すぎただけだもんね。ますみんは悪くない! よーしよし。いいこだねー」


 優しく、駄々をこねる子供をあやすような声。普通の人がやったなら「気持ち悪い」「黙って」「やめてもらっていいですか?」「へんたーい」などと徹底的に叩かれるに違いない。


 だが! この冬華ちゃんはひと味違うのだ。

 というかここでただ慰められるだけなのはいたたまれない。


「バブゥ♪」


 ああ、ママぁ。耳が孕まされる。甘やかす声を聴いただけで体の奥底からゾクゾクしてイク! 傷ついた私の心をいやしてくれるのはママだけなのぉ。


 ああ、ママの声は人を駄目にする。


 もうこの世界の10割のものは冬華ママでできていると言っても過言じゃない。


「雑魚虫でいいからママとずっと一緒にいたいでちゅ」


「待って……ますみん気持ち悪いんですけど!!」


「えっ」


 アハハハと笑う声とドンドンという台パンの音が聞こえる。私が何を間違えたというんだ。


「ハッハッハ、あーお腹痛い。面白すぎだって」


「そ、そう? ありがと。嬉しいなぁアハハ」


 私がキモイ? えっ、今キモイって言った? いやもう無理私消えちゃう。


「ほんと面白いって。なにも気にせずに話せる人は貴重だから、こうして話で笑い合えるのは嬉しいよ」


 おおう、なんだかよくわからないけど喜んでもらえているのかな?


「ますみんがいつもいてくれたら楽しいのに」


 どこか遠くを眺めながら心の中に生まれた想いを吐き出すように発せられたその言葉は、無理だと思ってるけどますみんと一緒にいたいということだろう。


「えふっ、わ私ならいつでも冬華ちゃんと一緒にいられるよ」


 それこそ雨の日も風の日も、晴れてる時だって家の中ならずっと一緒にいてあげられる。 私は冬華ちゃんを守って冬華ちゃんは私に癒しとボイスを与える。なんて素晴らしい関係だろう。

 

まあ、言ってることが完全な引きこもりだから「いや、それはちょっと流石にないでしょww」とか言われちゃうんだろうね。


「ほんとにずっと私といてくれるの?」


 およ? なんか予想と……。まあ面白そうだしいっか。


「冬華ちゃんが望むなら」


 キリッ! 今の私の周りにはイケメンキャラの周りにあるようなバラの花が舞っていることだろう。冬華ちゃんに仇なす存在からの攻撃を全て受け止めてかっこよく守る私を想像してみると……。


「ウへへへ、いいね。たまらんですなぁ」


「ほんとに! じゃあさじゃあさ、私を守るってことを証明してほしいな?」


「うっ」


 これは! 真っ黒で可愛いアイコン以外何も見えていないはずなのに、私には上目遣いで「だめかなぁ?」とキュルルンという効果音までを付け加えた冬華ちゃんパワーを感じられる。


 あざとい。あざとすぎるよ冬華ちゃん。でもそのあざとさが私のセンサーをビンビンに刺激してくるんだ。

 ただの会話からダメージを与えてくるなんて、流石だ。


「っつー、尊い……」


 流石私のツボをわかってるだけはある。

 でも私だってただやられるわけにはいかない。ここで言葉を返して幸せな時間を続けねば。私は冬華ママのために動きます!


「任せて、君には指一本触れさせないから」


「やったーぁ! そしたらさ、みんなにも知ってもらいたいな。私の一番自慢できる友達を」


 友……達? 私に友達が? ママであり守るべき存在であるのに、そこから友達オプションも付けてくれると?


「冬華ちゃん……私を友達だと思ってくれるなんて嬉しいよ」


「えへへ、それじゃあ、ますみんがどういう存在なのか知ってもらうための方法を教える

ね」


「そんなものはいらない。友達の私に任せなさい」


 私たちは友達なのだ。ならば言葉は不要。以心伝心一心同体となった私たちにわからないものはない!


「説明は?」


「毎日その声でささやいてもらうために頑張るから問題ない!」


「ますみん!」


「冬華」


 ああ繋がってる、繋がってるよ。今冬華ちゃんとの距離は確実に近づいてる。このままいけば冬華ちゃんが正式に私の友達兼ママになる日も近いよね。



 そのあとゼロゲッサーで勝手に私たちの愛の巣を探していたら、冬華ちゃんが家族? らしき人たちに呼ばれたからお開きとなったけど、私との関係ってどうやって紹介するのかな。


「それだけでも聞いておけばよかったかなー」


 とはいっても冬華ちゃんはもう退出しちゃったし、やるといった以上私は全力を尽くすの

み!


「よーし、頑張るぞぉ―。えいえいおー!」

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