冒険者とやくめ
孤児院の扉を叩く。
金髪の優しげな男性が出てくると、レニーは声を絞り出した。
「どうも。リック神父」
「おはようレニー……大丈夫かい?」
意外そうな顔をして、リック神父がレニーの肩に手を置いてきた。顔色でも悪いように見えているのだろうか。
「平気です。それよりもこの子を保護してほしいんです。親に捨てられたみたいで……女の子です」
後ろに隠れていたウタハの背中を軽く押す。出てきたウタハは戸惑いがちに頭を下げた。
「はじめまして」
「おや。かわいらしい子だね」
リック神父は柔和な笑みを浮かべながら座り込み、ウタハの目線に合わせる。
「リック・ヘンリーだ。お嬢さんのお名前を聞かせてもらっていいかな」
「……ウタハ」
「ウタハちゃんか。いい名前だ」
ウタハが不安げにレニーに視線を向ける。レニーは屈んで頭に手をのせた。
「オレができるのはここまでだ。月一でここには来るさ」
「会えるとは限らないけどね」
リック神父に言われて、レニーはバツの悪い顔になる。
「ま、会えないわけじゃないさ」
レニーはゆっくり立ち上がる。
「あとは頼んでいいですか」
「大丈夫だが、君のほうが心配だ。休んでいかないかい」
「やらなきゃいけないことがあるので。それが終わったら休みますよ」
肩をあげて、誤魔化すように口の端を上げる。
――と。
「リック神父」
リック神父の後ろから声がした。孤児院から、子どもがひとり出てくる。
クリスだった。クリスはリック神父からレニーに視線を移すと、口を開く。
「レニーだ」
名前を呼ばれて、軽く手をあげる。
リック神父はクリスに微笑みかける。
「おやクリス。ちょうどいいところに。新しい友だちだよ」
クリスにウタハを紹介するリック神父。クリスはまじまじとウタハを見て、近づいた。
「
手を出すクリスに、ウタハはおそるおそるその手を出す。クリスは一歩前に出て、両手でウタハの手を優しく握った。
「その、私はウタハ。よろしく」
クリスはくすりと笑い、リック神父に目を向ける。
「中に案内しても良い?」
「それはとても嬉しいね。お願いしていいかい」
コクリとクリスは頷いた。
「それじゃ、元気でね。クリスも」
レニーは背を向けて歩き出す。
「おにーさん!」
呼び止められて、足を止める。少しだけ顔と目をそちらに向けた。
「ありがとう。止めてくれて。拾ってくれて……終わらせないでくれて、ありがとう……!」
涙を溢れさせながら、ウタハが言う。クリスはウタハの背中をさすって、身を寄せてくれる。
――大丈夫そうだな。
「気にしなくて良い。そういう仕事だ」
レニーは何でもないことのように、答える。
世界は優しくない。厳しくて、辛いことが多くある。でも、それでも、捨てたもんじゃないと、そう思ってほしい。
真っ暗な世界が目の前に広がって、怖くて踏み出せないときは、冒険者が進む。灯りになる。
「困ったら依頼しな。
だから、またどうしても踏み出せなくなったら、また頼れと。そう言い残して、レニーは孤児院を後にする。
「がんばれ」
届かないエールを送る。
レニーは冒険者だ。依頼を受け、旅をし、問題を解決する。誰かが踏み込めない異界に入る、冒険をする者。
だから、ウタハを助けられた。そしてここらでひとまず、レニーの
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