冒険者と宴
数日後。
ラフィエとシュンの昇格を祝って宴が行われた。広い食事処を貸し切って、冒険者たちが酒を飲んだり、踊ったりと騒いでいる。
レニーは外部の冒険者で、この地域にも馴染んではいないため、端の座敷で適当に山賊焼きを食べていた。
鶏肉をタレに漬け込んで揚げたものらしく、タレの甘さがちょうどよく、酒にも合う。好みでレモンをかけてもいいし、とにかく美味い。
セツナがオチビト化していたことは報告していない。手間が増えるだけで、戻れたのもたまたまだろう。セツナ自身が一度オチビト化していると知られれば厄介事もあるだろうということもあり、その場にいた全員の秘密にしていた。
サンメンキョウと怪我のせいでギルドに戻れなくなっていた、そういうことだ。
「座ってもいいか」
レニーが目を向けるとセツナが立っていた。
「弟を祝わなくていいのか?」
「祝ったしあとでも祝うさ。きみこそいいのか、ラフィエを祝ってやらなくて」
「あいさつはしたし」
ラフィエの姿を見る。他の冒険者と盛り上がっているようだった。
「ここで上手くやれてるようだから、それでいいさ」
だんごを食べる。もっちりとした食感が新鮮だった。
「ま、座りたいならどうぞ。楽しくないだろうけど」
「ありがとう」
向かい側にセツナが座る。
「どうしてオチビトから戻す方法を知ってたんだ」
「知らないけど」
レニーは即答した。セツナがきょとんとする。
「カッとなって言いたいこと言っただけだ。あのとき戻って来るなんて確証はなかったよ」
もし、正気を失ったままで意識が戻る様子がなければレニーは討伐の方向で思考を固めていただろう。しかし、一度意識が戻って「殺してくれ」とセツナが懇願した瞬間、頭に血が上った。
最近自分が死にかけたことがあったからかもしれない。
間違いなく待っている人間がいて、必死に呼びかけている人間がいるのに、諦めているセツナの姿を見て、自分が生きて戻れたときのフリジットやルミナの顔を思い出して、カッとなってその場の感情だけで行動し、言葉をぶつけた。
そこに何の確証もない。自分らしくもない、考えなしの荒っぽいやり方だったとは思う。
まぁ
「……ぷっ、あははは」
口元に拳を当ててセツナが笑い出す。
「運が良かっただけか、私は」
「そうだね。でもオレにそうさせたのはキミの弟だし。キミが良い姉だったからって証拠じゃないかな」
死にかけてまでセツナを探していたところを助けたし、オチビトになっても絶望せずに訴えてきた。シュンの気持ちがなければレニーは普通に討伐しにいっていただろう。
「そうか。シュンに感謝しなきゃな」
優しげな瞳で騒ぐ弟を眺めるセツナ。
レニーは静かに酒をあおいだ。
○●○●
数日後。
報酬を受け取り終わり、一通り落ち着いたあたりでレニーは帰ることにした。
「よっと」
荷物を背負い直す。マジックサックにはヤタ特有の食べ物を詰め込んだ。フリジットとルミナへの土産だ。フリジットには行く前に頼まれたし、特にルミナは喜ぶだろう。
ギルドを出たところで、セツナとシュン。そしてラフィエに見送られる。
「今回は本当にありがとう。何か困ったときは頼ってくれ。ルビーの実力を存分に振るおう」
「世話になった。レニーさん。この恩は一生忘れないよ」
「仕事だ、気にしなくて良い」
ひらひらと手を振り、背を向けようとする。
「あの」
ラフィエが口を開き、レニーは動きを止める。
「近々、ちゃんと話をしに行こうと思う。ここが居心地いいから、これからもここでやっていこうと思うけど……その、がんばるね」
ラフィエは元々別のパーティーにいた。能力に伸び悩んだときにパーティーから脱退となってしまい、その後にレニーが手助けをすることになった。
しっかりとした意思と強い瞳に、かつてのラフィエを思い出す。
「……あぁ、きっと大丈夫だよ。ラフィエさんならさ」
ぱっと瞳を輝かせ、ラフィエは強く頷く。
「レニーさんのおかげ。本当に、本当にありがとう!」
「じゃ、
手を振り、背を向ける。
何度か振り返り、見えなくなるまで手を振り返した。
――後日、手紙が届いた。
レニーは誰かに内容を話すことはしなかったが、いい知らせだったという。
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