冒険者とドミネンス
狼が叫びをあげて大きな半透明の狼の顔を形成し、その牙でラフィエの一撃を防ぐ。フクロウが鳴き、光の羽根を魔弾のように連射し、シュンの猛攻を相殺する。
二人とも即座に後退すると、得物を構え直し、サンメンキョウを警戒する。鎖を引きちぎってサンメンキョウが吠えた。
レニーに振り返り、睨む。猿の口が開き、そこに魔力の玉が形成される。
避ける気はない。
深呼吸をし、意識を集中させる。サンメンキョウなぞいないと、そう思い込んで準備をする。
「させるかぁ!」
シュンが飛び込み、サンメンキョウの魔法を斬り裂いて不発にさせる。その間にラフィエが鞘に収めた大太刀にバフをかけて、抜剣する。
大剣を一息に引き抜いてそのまま攻撃するようなもののはずなのだが、ラフィエはまるでサーベルを扱うかのように自然に引き抜いて見せた。
「ヤギョウ、弧線!」
ラフィエの攻撃で、サンメンキョウは大きく怯む。何かの防御魔法でも使ったらしく、傷を追うまでには至らない。ヤギョウということは、ラフィエもシュンと同じような技を使うのだろう。魔法を仕込んだ剣術といったところだろうか。
任せても大丈夫そうなことを確認してから、レニーは魔法を発動した。
「シャドードミネンス」
○●○●
攻撃を弾き、一撃加える。皮膚が強靭なため、深手にはならないが、浅い傷ができる。
シュンは鉈を振るいながら、希望を見出した。
黒い腕が生えてこない。
あの姉でさえ追いつけなかった六刀流が完全に封じられている。姉とラフィエで戦ったときは、追い詰められたサンメンキョウが六刀流になり、変幻自在の攻撃に翻弄されるばかりだった。
姉も姉で、剣士としての意地があったのだろう。真正面から斬り合っていたし、頭が三つあることから加勢しようにも別の魔法で近づけないようにされていた。
六刀流に対応できない己の不甲斐なさ。それに打ちひしがれながら姉を信じて逃げることしかできなかった。
二度目は追い詰めることすらできず、敗走するしかできなかった。
『
動けない、そんなことも言っていたが、レニーの存在が大きすぎる。剣士として戦うつもりなど最初からなく、影の魔法を己の魔法へと変換したことでサンメンキョウが容易に影を使えない状況をつくった。スキルの効果なのだろうが、レニーがあれだけ落ち着いていた理由がわかった。
サンメンキョウは非常に狡猾だ。放置すれば放置するほど強くはなる。だからこそルビー級の魔物として警戒されているし、今回の個体は非常に強力になっているようだった。
だからこそ、レニーは
レニーを狙わせ、シュンにもラフィエにも攻勢に出やすいようにした。
しびれを切らしたのか、サンメンキョウが両腕を地面に叩きつける。そして剣を引き出そうとするが、剣が出てこない。原因が誰にあるかは、想像に難くない。
そしてそれが大きな隙になる。
「ホーリーセイバー!」
ラフィエが大太刀にバフをかけて薙ぎ払った。フクロウの顔が呪文を唱え、障壁を作り出す。ぶつかり合い、火花が散る。
シュンは逆手に鉈を持ち、己にバフをかける。
「すぅ、はぁ」
全身に力がみなぎり、最高潮に達した瞬間に飛び込む。
「ヤギョウ・
魔法を発動し、赤い刃でハサミで紙を切断するように障壁を破壊する。
狼の顔が吠え、半透明の鉤爪が襲う。シュンは即座に飛び上がって避ける。
姉も自分も、幼いころからヤギョウ流を教わってきた。剣に魔法を練り込み、剣技として放つ技。人生かけて刻み込んできた技がある。これだけお膳立てしてもらって、負けるはずがない。
空中で身を回転させて斬る。だが、サンメンキョウは後ろに跳び、逃げた。
「ライトファング!」
ラフィエが斬り上げとともに光の斬撃を飛ばす。それが狼の顔に命中し、目を潰す。
「血風牙!」
シュンの飛ばした赤い刃が、猿の顔に命中し、頬からに鼻にかけて一筋の傷ができる。
猿の顔が憤怒の表情を浮かべ、叫ぶ。耳をつんざくほどの声が二人に突き刺さる。
二人で全力を出しているが、中々決定打にはならない。
元々ルビー級の魔物なのだ。しかも強化されている。トパーズ二人とはいえ、簡単にはいかないだろう。
「――チェックだ」
黒い手が地面から大量に生える。そして、サンメンキョウを捕まえた。
「跪け」
サンメンキョウが地に伏す。
後ろを振り向くと剣先をサンメンキョウに向けるレニーの姿があった。
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