冒険者と意思確認

 もし仮にセツナが生きているとして、残された猶予はあまりあるとは思えない。サンメンキョウを討伐し、安全を確保したうえで捜索する必要があるだろう。


 レニーとラフィエはギルドから村に戻ってきた。


 食堂で、シュンと、ラフィエ。二人と向かい合う。


「まさか、あんたがラフィエの知り合いの冒険者だっただんて。あんときは助けてくれてありがとう」


 頭を下げるシュン。


「これを機に無謀なことはしないことだ」

「でも、姉さんを探さないと。手遅れになる前に……」


 暗い顔だった。手遅れになっていると、そう思わないようにしているが、頭から離れないような、そんなところだろう。


 大事な人ほど最悪の事態を考えて不安になってしまうものだ。


「怪我は?」

「随分良くなった。戦えるくらいには。医者が驚いてた。上質なポーションでも使わない限りここまでよくならないって……あんたのポーションのおかげだ。いくらするんだ?」

「気にしなくて良い。ただの押し売りだ」

「でも……」


 頼まれてない助けをした。それだけだ。レニーの自己満足であって、結果感謝されることはあっても、使用したアイテムを補填してもらう義理はない。


「サンメンキョウを倒しに行く」


 レニーは話の流れを切って本題を告げた。シュンの獣の耳がピンと立つ。装備品と聞いていたが、移植するということは体の一部と化すのだろう。狐の尾のようなものは消えており、獣の部分は耳だけになっている。


 極限状態に陥れば、獣になる。


 極限状態から脱して、精神も安定したから元に戻ったのだろうか。


「来るかい?」

「でも、あいつは……姉さんでも」

一撃で仕留める・・・・・・・


 シュンだけでなく、ラフィエも目を見開く。


「オレは動けない。代わりに一撃で終わらせる。時間稼ぎをしてくれればいい。ラフィエさんと一緒に」


 テーブルを強く叩き、シュンが立ち上がる。その姿をラフィエは心配そうに見つめた。


「で、できるかよ。姉さんでも勝てなかった相手だぞ! ラフィエと二人で時間稼いだとして、その一発が失敗したら死ぬかもしれないんだ」

「でもキミのお姉さんを探すためにあいつは邪魔だろ」

「それはそうだけど……」


 歯噛みするシュンに、ラフィエが口を開く。


「私はやるよ」

「ラフィエ……」

「だって悔しかったから。あのとき・・・・と違って逃げちゃって。セツナなら大丈夫って思って、それで、こうなっちゃってるし」

「ラフィエは悪くない。あのとき、俺が姉さんを困らせたんだ。ラフィエは姉さんの気持ちを汲んでくれて、それで」


 サンメンキョウとの戦闘で色々あったのだろう。二人とも、落ち込んでしまう。


「オレには家族がいないから姉さんだとか、そういう感覚はわからない。ソロだし、仲間がどうこうってのも感覚自体は薄い」


 レニーの言葉に二人とも視線が吸い込まれる。


「でも、これだけはわかる。シュンさん、本当は自分で決着つけたいだろ? トドメは無理でも一泡吹かせるくらい、やりたいだろ」


 シュンを真っ直ぐ見る。

 その姿に、レニーは過去の自分を見る。ルミナを傷つけられて、無謀にもスカハの体を持った偽物に挑んだときのことを。


「トパーズなら実力は十分さ。あとは、気持ちに素直になるだけさ。ひとりじゃ無理だったかもしれない。けど、三人になるし、初見とは違う。やれるさ」

「……いいのか」

「いいさ。失敗はしない、オレも二度目だ」

「一緒にがんばろうよ」


 シュンは数秒黙り込んで、静かに涙を流した。


「ごめん。もう無理だって、思ってた。けどもう一度挑んで、いいんだな」

「少なくともオレは構わないさ。むしろ頼りにさせてくれ」


 顔を上げて、表情を引き締める。その瞳には覚悟があった。


「あぁ! 死ぬ気でやる」




  ○●○●




 夜。

 サンメンキョウと戦闘した付近で、火を起こす。


「さて、これで来てくれるかな」


 両手を腰に当てながら、サンメンキョウを待つ。

 その場にはレニーひとりだけだ。


 火を眺めていると、ざわざわと風が騒ぎ始め、火が揺らぐ。


 ――夜が啼き始める。


 少しずつ、声が近づいてくる。その音を感じながら口の端を吊り上げる。


「サル如きが女王様に楯突いたらどうなるか、きっちりしつけてやるさ」


 木々を突き破ってサンメンキョウが現れた。レニーを睨み、猿の顔に怒りの形相を浮かべる。


 狼の顔が吠え、フクロウの顔が呪文を唱えだす。黒い腕が生え、剣を引き抜く。腕は四本、剣は六本。


 六腕六刀流のサンメンキョウが、レニーに襲いかかる。


 突き、薙ぎ、叩きつけ。全方位からレニーを切り刻みに来る。レニーは魔力を靴に通し、加速で前に突っ込んだ。


 大型の体が災いして、さほどくぐり抜けられないというわけではない。足の間を滑り込んで抜け、剣撃を抜けると飛び上がって背中の腕に触れた。黒い腕もおそらく影だ。触れた瞬間、影だとわかった。予想が確定しスキルを発動する。


 影を操り、四本の腕と剣を鎖に変形させると二本を首に巻き付ける。そしてもう二本が腕に絡みついてから、地面に突き刺さった。


「自分の魔法で縛られる気分はどうだい?」


 距離を取る。


 サンメンキョウの両サイドから、大太刀にバフをかけたラフィエと、鉈を二本逆手持ちにしたシュンが突っ込んだ。


「スタースマイト!」

「ヤギョウ・渦!」


 二人の攻撃がサンメンキョウに炸裂した。

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