冒険者と常駐
それから二週間、近くの森林の捜索や見回りを続けたが被害は一切でなかった。レニーは荷物をまとめ、村を出ることにした。
村の出口で、ベアトリスや村の人々に見送られる。
「レニーさん、あなたに助けに来てもらえてよかった」
ベアトリスが手を前に出す。レニーは応じて握手をした。
「ま。依頼があるならたぶん来るから。困ったら出しなよ」
「あぁ。そうさせてもらう」
ベアトリスは笑顔で頷いた。
「ベアトリスじゃ迷子になるかもしれないしな!」
「あと、ドジって狼逃がしたりとかな」
村人たちが茶化すとベアトリスは顔を真っ赤にして振り返った。
「過去の失敗を言うな! 恥ずかしいだろ! その後解決したし。ちゃんと仕事はこなせてるんだから目を瞑ってくれ!」
ベアトリスが頬を膨らませると村人たちが爆笑する。
「レニーさんお元気で! 今回は本当にありがとうございました!」
「娘がお世話になりました!」
店員とその母親が頭を下げる。続くように子どもが大きく手を振る。
「レー兄またねー」
とびきりの笑顔だった。レー兄というのは、いつの間にか子どもに定着していた呼ばれ方だった。
「あぁ、気が向いたらまた来るよ」
レニーも小さく手を振る。そこに別の子どもが駆け寄ってきた。
「レー兄これあげるー」
駆け寄った子どもが首に下げているものをレニーに渡してくる。レニーは首を傾げながらそれを受け取った。首飾りにも見えたが、紐の先には小さな鹿の角のようなものがあった。先がとがっている方と広がっている方があり、切れ込みのように空いた四角い穴と、丸い穴がひとつずつ空いている。見た目は非常に小さな角笛のようだったが、構造が違った。
「これは?」
レニーの疑問にベアトリスが答える。
「羊飼いが使う笛だな。吹いてみてくれ」
ベアトリスのジェスチャーに合わせて、笛を咥えてみる。
「上にある穴を塞がずに、唇をすぼめて吹くんだ」
言われたように吹いてみるが、「ひゅー」と空気の抜ける音がするだけだった。それを見て、笛を渡した子どもとベアトリスが顔を見合わせ、微笑む。
「結構難しいんだ」
レニーは口から笛をはずして、首にかけた。子どもの頭に手を置き、撫でる。
「ありがとう。吹けるようにがんばるよ、先生」
「うん!」
そして背を向ける。
大勢に手を振られながら、レニーの依頼は終了した。
常駐冒険者というものは土地そのものに愛着がある場合が多い。ベアトリスも村に馴染んでいたし、腰を落ち着けて生活をするというのは少し羨ましいと感じる。
故郷と呼べるものはレニーにはない。記憶も、何もかも。だからかもしれない。
目を閉じる。
まぁ、レニーもギルド所属の冒険者だ。帰る場所はある。最近は帰る、という安心というか、心地よさみたいな気持ちが強くなってきている。
居場所を感じているのか、別の何かなのかよくわからないが。
笛を咥えてみる。
無論、空気の抜ける音しかない。いろいろ吹き方を試してみる。
「あ……ちょっと鳴った」
冒険は長い。そのうち吹けるようになるだろう。
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