冒険者と変わらぬ心

 気持ちが伝えたいだけだなんて嘘だ。伝えるということはその「先」を求めているということだ。


 しかし、人が欲望のままに突き進めば他を傷つけて、壊していってしまう。


 だからせめて、気持ちだけでも伝えたい。そういう想いで、きっと告白してくれたのだろう。


 無意識な、自然な関係というのは居心地のいいものだ。


 恋愛というものは、その自然を崩す可能性がある。それゆえに、レニーは何も・・気づかない・・・・・フリ・・をした。こちらが自然に努めていれば、少なくとも急激に崩れることはない。崩れた気まずさに、戸惑うことも違和感を覚えることもなければ、崩れることに怯える必要もない。


 返すことのできない感情に、向き合って何が良いのか。


 だから看病で食べさせてもらったことも、恋愛願望の話をしたときも、祭りのデートも、酔い潰れて介抱をられる・・・ことも、ミズギのことも、それ以上は踏み込まず、それ以上を考えず、ただ自分のままで行動した。


 恋も愛も知らない自分でも、向けられている感情が特別なことは、わかる。


 わかっていて目をそらし続けたのは、嫌いだったとか、鬱陶しかったとかそういうことではなく、やはりレニー自身の問題と、レニーの抱いている感情だろう。


 つまるところ、これに尽きるのだ。


「なるべく誤解されたくない。だから、ちゃんと言うよ。飾らずに、ぼかさずに」


 すぅっと息を吸って、胸中を吐き出す。


「オレは、二人とも大事で、大好きだ」


 ルミナが目を見開く。フリジットはルミナを気にかけているようで、ちらりとそちらに目を向けてから、少し体を寄せた。


 ――そう。


 一緒にいて居心地がいいのも、大好きなのも、その点だけで言えば、レニーも同じなのだ。


 同じで、だからこそ、ヴァレンティーナのときにプレゼントを用意した。結ばれたいとかアピールとかそういうのでは全くなく、単純に、大好きで、ただただ一緒にいてくれることに感謝したかった。


 喜んでくれて、嬉しかった。


「例えば、オレがルミナかフリジットかを選んだとして、付き合ったら幸せを感じられると思う。ルミナでも、フリジットでも」


 ルミナを見る。


「ここに来て、一番一緒に依頼をこなした回数が多いのがルミナだし、頼りになったのもルミナだった。口下手だけど、でも、一生懸命で純粋で、そんなところが好きだ。パーティーを組んだら、きっと楽しいんだと思う」


 フリジットを目を向ける。


「フリジットは愚痴を聞くのが楽しかった」


 言われて、フリジットが顔を赤くする。


「ころころ表情が変わって、それが本当に見てて飽きなくて、面白かった。会話にほどよい刺激というか、話していて気が楽で、明るいところが好きだ」


 息を吸う。


「二人とも、同じだ。同じだけ大好きだ。大事で、そんな二人から告白されて、オレは嬉しい。これは本当だ。でもほら、二人とも好きってことは、オレはどっちも選べない」


 笑って、拳を握る。


 ズボンのポケットに手を突っ込みたくなって、それを感情で抑え込む。手を広げて、脇に置く。


「それに、きっとオレが幸せを感じるのは最初だけだ」


 目を伏せて、ため息を吐く。


「二人がどうとかじゃないんだ。オレの性分の問題だ。性格の。オレは、どこまでいってもソロなんだ」


 いつか言った言葉を、繰り返す。


「目標も無くて、やりたいこともない。恋人っていうのは一緒にやりたいことをやってく関係だろ。ルミナだって、フリジットだってやりたいこと、憧れていること、最終的にどこまで行きたいとか、そういう気持ちがあるから、気持ちを伝えてくれたんだと思う。オレにはそれがない。その内、いて・・いけなく・・・・なる・・。破滅するって、維持できないって思っている関係になるつもりはないし、キミたちをつき合わせるつもりはない。そんなの無責任だし、真剣に想いを告げてくれたキミたちにも、失礼だ」


 天秤にのっている感情が釣り合っていなければ壊れる。最初の同情や快楽に飛びついて秤に乗れば、崩れるのみだ。


 そこにレニーの恋愛感情キモチはないからだ。


「オレはオレの人生も、他人の人生も背負う気がない。選べば、どっちも背負うし、選ばなかった分の人生も背負う。オレ自身が望んでいれば、それはそれでいいのかもしれない。でも、オレは望めない。背負えない」


 中身のない人間だと自負している。だから、二人のどちらかの隣にはいられない。中身のない人間はその時だけ自分という資産を全て投入できるだけで、継続はできないのだ。なぜなら、その時のことしか考えないから。


 見返りが欲しいわけではない。ただ、自分を使いたいように使うだけ。


 いつか死んだとしても、それは自分を使い切っただけなのだ。


「オレには覚悟がない。それで、覚悟を固める予定もない。確証のないものに待ってくれとも言えない。オレが変われる保証はどこにもないし、フリジットもルミナも、その間に大事にしてくれる人や真剣に考えてくれる人はきっといる」


 自分の手を見る。そして二人を見る。


「オレは、どうしようもなく弱いんだ。それにオレはずっと、ソロ仲間だとか仕事仲間とかそういう関係でいたかった。一番居心地がよく感じてたから。だから、ごめん」


 終わったな、と思いながら、レニーは言う。


「選べないし、気持ちに応えられない。きっと、オレも二人も辛くなるだけだ。二人のためってわけじゃない。全部、オレのためで、オレの弱さで、オレの欠点でしかない。だから、本当にごめん」


 レニーが言い切ると、二人は呆けて、それから顔を見合わせた。


 ルミナは数度、瞬きをする。そして、その薄い桃色の唇を開いた。


「……レニーが」


 その声に悲しみも、苦しみもなく、ただ純粋な。


「――だいすき・・・・って。言ってくれた」


 純粋な、驚喜の念だった。


「――――は?」

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