冒険者と考えること
ルミナに食べさせてもらう。
「ありがと」
「……うん」
部屋に入ってからほとんど会話をしていない。ルミナが不機嫌になっているのかと思ったらそうでもなさそうで、さっきから目線が泳いでいるし、顔も赤い。
「体調悪い?」
「へーき」
「顔、赤いけど」
ルミナは頬に手を当てる。
「……気のせい」
「そっか……あの、怒ってたり?」
「してない」
差し出される鶏肉を食べる。
無言の時間が続く。レニーは特に気にせず、ただ、食事を手伝ってもらうことにした。
ルミナは元々口数が多いタイプではない。無理に話そうとしなくてもいいだろう。話したいことがあるのなら、話してもらえばいいだけだ。
夕食を終える。
「ありがとう」
こくりと頷かれる。
「……レニー」
「うん?」
視線をそらされる。返事をしばらく待つが、戸惑っているのか中々口に出せずにいた。
「ボク、もっと強くなりたい」
「今以上に?」
強さはカットサファイアになれたのだし、疑いようもないもののはずだがルミナは不安げだった。
「……ボク、弱い。レニーが生きてるって信じきれなかった。死んでたら、どうしようって。フリジットみたいに、強くいられなかった。きっと戦えなかった」
つまり、精神面の話ということだろう。
「……鍛えるもんじゃないと思うよ」
「でも、悔しかった。怖くて、待つしかできない。ボクが」
「立ち上がれるときに立ち上がれる人を頼るのも手さ。それは弱さじゃない」
レニーは窓から空を見上げる。雲一つない快晴だった。
「例えば誰かかが死んだとして。ま、葬式があって、そこにいろんな人がいる。泣き崩れる人もいれば、強くあろうと決意を新たにする人もいる。死んだやつを笑うやつもいる」
ルミナに視線を戻す。
「死んだ人間にとっては全員必要さ。泣いてくれる人も、現実に向き合ってくれる人も、笑い飛ばしてくれるやつも。それが己の出した結果さ。良い悪いじゃない。いればいいというわけじゃない。でも、オレは全員いてくれた方が嬉しいし、そこに弱いだ強いだなんてことは思わない」
微笑む。
「覚えててくれるし、泣いてくれるんだろ。最高のソロ仲間じゃないか。だいたい、オレもキミのときは泣いたしね」
「……レニー」
ぽろりと、ルミナの目から涙が流れる。
「どうして。優しい言葉、かけてくれるの」
「身内に甘いだけさ。本人のタメにはならないだろうし」
「そんなこと、ない」
涙を拭いながら、ルミナはレニーの右手を握る。
「ずっと、助けてもらってた。レニーに」
「なら良かった。オレもキミを頼りにしてるからね」
「だから、生きててくれて。凄く、嬉しくて。でも、ボクは何もしてなくて。いろいろ、グチャグチャになって」
「ここにいてくれてるだろ。十分」
「レニー、生きてて良かった」
「死んだかと思ったけどとりあえず生きられたよ」
ルミナは涙を流しながら、今までで一番自然な笑みを浮かべた。
「今。レニーと話せて、凄く嬉しい」
本当に、花のような笑みだった。
○●○●
久々にギガントステーキを食べた気がした。満腹感に幸せを感じながら、エールを飲む。
「復活したみたいね」
声をかけられて、ルミナは目を細める。水色の髪をかきあげながら、ロミィが話しかけてきた。
「その様子だと大丈夫だったかしら」
頷く。
「ありがとう」
「何が?」
「気遣ってくれた」
ロミィは微笑んで、ルミナの肩に手を置いた。
「ワタシたちが困ったらよろしくね」
「任せて」
ロミィは満足げだった。
「……ねぇ、ロミィ」
「何かしら」
「告白が怖いときってどうすればいい?」
「……するの?」
ルミナはロミィから視線を外す。
「本当は、しようだなんて考えたことなかった」
レニーとの記憶を振り返りながら言葉を紡ぐ。
「でも、いなくなる。かもって、思ったら。言ったほうがいいのかなって」
指を絡めて俯く。
「でも断られるの、怖い。自信ない、し」
恋仲になれれば幸せだと思う。けれどそうなれなかったときにどんな顔をすればいいかわからない。どう接していいかわからない。
ロミィは顎に指を当て、考えるようなしぐさを見せる。
やがて、その唇をゆっくり開いた。
「そうね。プラスに考えることかしら」
「プラス?」
「付き合うことをゴールに考えるんじゃなくて告白をゴールに考えるのよ」
ロミィの顔は真剣だった。
「ルミナが告白して何を伝えたいか、もう一度考え直したほうがいいかもね」
「どうして?」
「恋は盲目だからよ。その好意は恋や愛そのものでも、恋愛が正しい形とは限らないわ」
ロミィは遠くで騒いでいるパーティーメンバーを見る。
「付き合えてもそうでなくとも、好意も関係性も間違いなく本物なのよ」
だから、とロミィは続ける。
「結果を考えるんじゃなくて過去を見ることね。未来は過去があるからこそだから。好きだからでスタートせずになんで好きなのか、どう好きでありたいのか考えて、伝えなさい」
「……ロミィ」
「何」
「大人」
ロミィはウィンクした。
「当たり前でしょ」
ルミナがちゃんと考えられるかわからないが、少なくともロミィの言葉で少し気持ちが軽くなった気がする。
「じゃあ、ワタシ戻るから」
「うん。ありがとう」
「どういたしまして」
ロミィはパーティーメンバーの下に戻っていく。
ルミナはエールの残りを一気に飲み干して、頬を叩いた。
「がんばる」
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