冒険者と怒闘
二日ほど探索を続けた。元々、数日かけて探索をする予定だったので、全く問題はない。
そして、二日目にして、見つけた。
悪食にも、ほどがある。
見つけたベルセルクは、自力で倒したであろうダイナドラゴを食っていた。喉元に食らいついて、肉を貪っている。
ぐちゃ、ぐちゃと肉の裂ける音が響く。
フリジットはマジックポーチを近くの木の根元に置くと、ゆっくり歩み寄った。フリジットの足音が聞こえたのか、ゆっくり振り返ってくる。口から胸元まで、ダイナドラゴの血で染まっていた。
「グォオ……」
「……レニーくんを食ったわね、あなた」
拳を握りしめる。沸々と腹の底から怒りが沸き起こり、全身を魔力が満たす。「ソウルブラスト」という感情を燃焼させて魔力を生成し、身体能力を上げるスキルだった。
ベルセルクが立ち上がり、置いていた斧を持ち上げる。フリジットは腕を回し、首を傾けて鳴らす。
「ニィ」
ベルセルクが笑みを浮かべる。フリジットから漲る魔力を見て、上質な肉が来たとでも思っているのだろう。
ベルセルクは斧を振りかぶり、フリジットに叩きつける。
「グヘヘヘ……ヌゥ?」
フリジットは左腕で受け止めていた。ガントレットが反応し、蒸気を吐く。
キュアノスウルフ。ガントレットの名前だ。攻撃が適切なほど、防御が適切なほど、その衝撃を吸収して魔力に変換する。ただ攻撃をすればいい、防御をすればいいというわけではないのは、適切であればあるほどガントレット全体に衝撃がうまく伝わり、合金の反応を促せるからだ。
「……返して」
斧を弾き、懐に潜り込む。
「返せェエッ!」
鳩尾に右拳を叩き込み、ベルセルクを殴り飛ばした。木々を破壊しながら、ベルセルクが遠ざかる。その影を、フリジットは歩いて追った。
「ふぅー」
息を吐きながら、拳を突き合わせる。ガントレットから蒸気が噴き出した。
「ガァアアアア!」
しばらく進むと、咆哮が近づいてくるのがわかった。砂粒のような影から、すぐにベルセルクの姿が大きくなる。急速に接近してきたのだ。何かしら魔法でも使ったのか、体中に小さな稲妻が走っている。身体強化の類だろう。
フリジットは両拳が顔の前に来るように、腕を立て、中腰で待ち構えた。
「上等よ」
ベルセルクの生存能力は高い。体に負荷をかけるが、生半可な傷はすぐに回復するほどの自然治癒力を持っている。過酷な環境を生き延びてきたゆえか、耐性や防御力も強い。
ゆえに、一気に決着をつけるのは難しい。
「嫌っていうほど痛みを思い出させてやる……!」
ベルセルクが迫る。勢いのついた横薙ぎをフリジットに振るってきた。
避ける気はない。
キュアノスウルフで攻撃を受けて、体を攻撃の方向に合わせてひねることで完璧に防御する。
最適な方法で防御をすればスキルの「ジャストガード」が発動して防御の強度を底上げしてくれる。元々「鉄壁」という防御姿勢を強化し、自動的に魔法の障壁を生成して身を守るスキルも獲得していることもあり、フリジットの堅牢さはトップレベルだ。
どんなモンスターとも殴り合える。
振り下ろされる斧を横から殴り、流す。ゆっくり接近し、脇腹に拳をめり込ませた。体格差をものともせず、ベルセルクの体を浮かす。
「ウグッ」
苦し紛れに、ベルセルクの手がフリジットの頭を掴む。そして持ち上げた。
ベルセルクがフリジットの頭を潰そうと力を込めるが、フリジットは振り払おうとせずに両足を突き出した。
ヒールの踵部分がまるで狼の顎のように開き、胸板に噛みつく。そして、拳を振り上げて、ベルセルクの手首を殴り、強制的に手を外させた。
体を曲げて、不安定な状態から拳を繰り出す。ベルセルクの顔を左右から何度も殴った。
普段なら届かない位置だが、ヒールでベルセルクの胸を無理やり足場としているので、届いた。
「ガッ、アガッ、グエッ」
足を掴まれそうになったところでヒールを外し、両足で額を蹴った。ベルセルクは地面を転がり、フリジットは静かに着地する。
手の平を上にして、
ベルセルクは大きく息を吸って――
「――――!!!!」
形容しがたい叫び声をあげた。
魔力の奔流が周りの木々を破壊する。じわりと嫌な感覚がフリジットの肌を撫でた。
おそらく「狂化活性」だ。これ以上何を狂うのだと思わなくはないが、思考を放棄し、身体能力や魔力を飛躍的に向上させる。
長期的に見れば寿命を削るスキルだが、戦闘においては非常に優位に立てるものだ。
ベルセルクの厄介なところは、他の冒険者が十割の力を出し続けられないのに対して、ベルセルクは十割以上の力を出し続けることだ。しかも耐久力も高い。短期決着をさせたいのに現実ではそうはいかない。
――あぁ、これは生き残れないな。
ベルセルクの強さを目の当たりにして、フリジットはそう思ってしまった。
自分自身のことではない。フリジット自身は一日中戦ったって生き残れるし、負けるつもりはない。
フリジットが思ったのはレニーのことだ。
別に、今回は無茶をしたわけでは、なかっただろう。襲われているパーティーを助けようとして、そして運が悪かっただけ。
レニーは真っ向勝負ができるタイプのロールではない。力をセーブしながら戦いがちなレニーとは相性が悪かっただろう。
「……ちゃんと倒すからね」
これ以上被害を出さないため、犠牲になった者の無念を終わらせるため。
それが残った冒険者の仕事だ。
ベルセルクが斧を振り下ろす。フリジットはそれを弾いて、カウンターを叩き込んだ。
時間はかかるが、確実に倒す。
カットサファイア冒険者の、誇りにかけて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます