冒険者と集中砲火
翌日。
暗闇の中でレニーは歩く。もう一度スティールキャンサーのいる採掘場にやってきたのだ。昨日と同じ動きで、スティールキャンサーに近づく。
スティールキャンサーは起きていた。食事の手を止め、レニーに体を向ける。そして、走りだしてきた。
釣りの開始だ。
「うお、早いな」
レニーはスティールキャンサーに背を向け、走りだす。影の尖兵のバフはかけずに、己の全速力で逃げた。
「はっ、ふっ」
ミラージュを掴もうとするハサミを搔い潜りながら通路を進む。障害物のように視界を遮り、何度も襲ってきたが避け続けた。ただ、ひたすら外を目指す。
ハサミだけでは無理だと判断したのか、スティールキャンサーが口から水弾を飛ばしてくた。レニーは魔弾で相殺した。ハサミに水弾と逃げ続ける。
やがて出口の光が見えてくる。
レニーはそこで影の尖兵のバフを発動させて、走った。スティールキャンサーから離れて、外に出る。
「おわっ」
勢いよく飛び出したために躓き、地面を転がる。
「あぷっ、ぐぇ」
転がり続け、やっと止まったところで目を回す。採掘場への入り口を見ると、歪んだ視界の中でスティールキャンサーが外に出てくるのがわかった。
「釣れた!」
レニーはフラフラしながらも立ち上がり、走ってスティールキャンサーから距離を稼ぐ。
外にさえだせば、最大火力を叩き込める。
レニーとスティールキャンサーの間にユーヴェルが立つ。杖を構えて、魔弾を複数出していた。
「フルバレット!」
ユーヴェルの魔弾が、腹部の傷に向かって殺到する。それをスティールキャンサーは両のハサミで防いだ。
しかし、そこでスティールキャンサーのバランスが崩れる。足元に、黒い魔弾が
採掘場の影の切れ目、そこにレニーが全魔力を使ってつくった徒影の尻尾による分身がいる。影の尖兵のバフもたっぷりのった、影だ。
レニーのほうはもう何もできないが、やれることは全て影に置いてきた。
影から第二の魔弾が発射され、足元の魔弾とぶつかり合う。
ムーンレイズ。
黒い爆発がスティールキャンサーを包む。嵐と錯覚してしまうほどの最大級のムーンレイズだった。
その中でユーヴェルは両手剣ほどの大きさの赤い魔弾を形成し、回転をさせる。小さな雷が、魔弾の周りに発生した。
バチバチと音を立てながら回転の速度を増やしていく。
黒い嵐が晴れた先で、スティールキャンサーはまだ立っていた。甲殻にヒビが見られ、足の関節が砕けたのか折れてはいるが、ムーンレイズだけでは決定打にならなかったようだ。徒影の尻尾から発動させるムーンレイズは、レニー自身が発動させるものとかなり精度が違うというのもあるのかもしれない。
それでも上位の魔法だ。それを耐えきるとはさすが特殊個体と言えるか。
「レニー、あとは任せろ!」
レニーの後方で、クーゲルが声を張り上げる。両手で長杖を構えており、シャフト部分をスティールキャンサーに向けていた。
膨大な魔力が、シャフトの先に集まっている。大きな球体を形成し、周りに風を起こしている。
それを確認してからレニーはユーヴェルの方へ振り返った。ユーヴェルの方が魔法を完成させるのが早かったらしい。準備が整ったようだった。
「エリファーレッド」
ユーヴェルの呟きと共に、魔弾が発射される。空気に風穴を開けながら、赤い閃光が飛んでいく。
スティールキャンサーはハサミを交差させるとエリファーレッドを受け止めた。高速回転する魔弾とハサミが火花を散らし、キイィと甲高い音を響かせる。
止められているが、ガリガリと削れているようだった。そして攻撃はこれだけではない。
クーゲルの魔法もある。
「行くぜぇ! ドラグノフ!」
魔法名と共に、大砲のような魔弾が飛ばされた。それがエリファーレッドにぶつかると爆発した。
「おわっ」
爆風に巻き込まれて、レニーの体は耐えきれずに転がる。前にいたユーヴェルは何とか両手両足を地につけて耐えた。
爆発を見ながら思う。
これで倒しきれないとなるともうお手上げだ。この連続攻撃を耐えきれるとしたら、もう化け物でしかない。それこそ災害級だ。
爆発が収まる。
視界が晴れた先には、体の中心に大穴が開いたスティールキャンサーの姿があった。ぼろぼろと甲殻が剥がれ落ちていき、体が崩れていく。
完全に体が崩れ去り、スティールキャンサーであったものが、採掘場の前に転がることとなった。
その場にいた全員で、大きな安堵の息を漏らす。
――討伐完了だ。
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