冒険者と魔弾形状

 レニーは小屋の外でユーヴェルといた。魔弾のことについて教えてもらうためだ。

 作戦を決行しようにも日が沈み始める時間帯であったため、明日にすることになったのだ。空いた時間で、レニーはユーヴェルから魔弾について教授してもらうこととした。


「聞くところによると、早撃ちが得意なんだっけ」

「まぁね」

「ちょっとみせてくれる? 撃つから迎撃してほしい」

「了解」


 距離をとって、向かい合う。ユーヴェルは両手で杖を構え、先をこちらに向ける。レニーは平手をクロウ・マグナに添えた。


「すぅ」


 吸気と共に魔力の風が起こる。ユーヴェルの正面にいくつもの魔弾が生成された。青白い光を放つ、マジックバレットだ。現状で四つ生成されている。


「……数を増やしてもいいか?」

「そうだな……最大数出してみてくれ」


 目を見開かれる。


「全部撃ち落とす気か?」

「絶対無理。だけどやり過ごせはするさ。それよりもう少し見たい・・・・・・んでね」

「……そういうことなら」


 ユーヴェルの正面にマジックバレットが増えていく。十、十五……二十。


「威力は最低限だから、大丈夫だろうけど。同時発射していいのか」

「一発、試し撃ちできる? 足の間らへん」

「わかった」


 炸裂音が響いた。


 マジックバレットが発動し、レニーの足の間を抜け、地面に突き刺さる――音が響き終わる前に・・・・・・・・・


 ――凄まじい速度だった。


 目を凝らしていてもレニーが今までみたマジックバレットの中で一番速いかもしれない。しかも真っ直ぐ正確に飛んでいる。確かにマジックバレットはマジックアローに比べて速度が出るが、発射したと思えばもう着弾しているというレベルではない。

 しかし今のマジックバレットはそのレベルに達していた。


「……なるほど」


 魔法とは魔力のコントロール技術。同じ魔法でも、魔力の使い方、生成の仕方によって威力も速度も変わる。「マジックバレット」という魔法をどうイメージし、飛ばすか、それが肝要なのだ。


 ユーヴェルはそれが非常に優れているようだった。


「わかった。頼むよ」


 レニーは影の尖兵のバフを己の目を重点的にしてかける。


「じゃあ、いくぞ」


 杖を傾け、ユーヴェルは口を開く。


全弾発射フルバレット


 レニーは瞬間、シャドーステップで後ろに下がりながら早撃ちをした。徒影の尻尾を発動し、影の分身にも同じ動作をさせる。


 魔弾がぶつかり合い、弾ける。小さな青い花火が上がっているようだった。捌ききれなかった魔弾が徒影の尻尾に当たり、吹っ飛ばされて消える。


「はや……」


 驚いたような様子でユーヴェルが呟く。


「正確に飛んでくるからラインがわかれば撃ち返せるね」

「え、いや、確かにそうだけど。そんな簡単なもんじゃないはずなんだけど」

「うん、全部捌けなかった」


 徒影に撃たせたのが二発――本当は五発撃たせたかったが、精度不足で撃てなかった。そしてレニー自身が五発撃った。よって捌けたのはたった七発で、残りの十二発ほどは全て徒影に受けてもらった。全て早撃ちで捌くにはレニーの左手が四本必要だ。


「ルビー冒険者ってやべえ」

「魔弾の形状と動きが特殊だね。教えてもらっていい?」


 レニーがそういうと、ユーヴェルは強く頷く。レニーはユーヴェルに近寄る。


「レニーさんはどういう魔弾を形成してるんだ」

「こうかな」


 人差し指を出し、魔力を練る。クロウ・マグナを通すとシャフト内部に魔弾を生成するため、見せるために指にした。


 指先に青白い球体の魔弾が生成される。大きさは親指程度だった。周りの空気を巻き込みながら弱い風を起こす。


「……かなり練ってるな。え? あの速度で?」


 レニーは魔弾を消して、指を鳴らすように再び出現させる。


「で、どうすればいいんだ」


 魔弾を虚空に飛ばす。速度が出ているはずだが、ユーヴェルの速度にはかなり劣っていた。


「あ、あぁ。まず形状を円筒状にするんだ」


 ユーヴェルは杖を構える。そして魔弾を出現させた。大きな釘のような形状の魔弾が出現した。


「先端は尖らせすぎてもいけない。少し丸いでっぱり程度にする……とはいっても、へこませたり、尖らせたりするときもあるんだけど」

「ふぅん。この円筒状がデフォルトで先端は用途によって変えるのか」

「そうなる」


 こうか、と。レニーは手のひらをかざして魔弾を生成する。撃ってみるが速度はでなかった。


「この形状にする目的は、先端部分に魔力を集中させて、後ろの部分を加速に使うんだ」

「つまりぶつけるための部分と加速させる部分を分けてるわけか」


 レニーは魔力を圧縮して撃ちだすときに弾き出すイメージで撃っていたが、魔弾そのものを射出させている、させるための形状なのだろう。


「このままだと真っ直ぐ飛ばないから回転させるんだ」


 そういいながらユーヴェルが魔弾を飛ばす。確かに魔弾の一番後ろの部分が小さな爆発を起こして凄まじい速度で飛んでいくのがわかった。


「大砲っていうのは弾丸を装薬っていう火薬を詰め込んだものを爆発させて発射するらしいんだ。魔弾でそれをできないかあれこれ試した結果がこれだ」

「……となると、こうか」


 レニーは圧縮して小さくするのではなく、ある程度大きめの魔弾を形成した。無論、ユーヴェルと同じ形状だ。そして魔弾を発射させる。


 炸裂音と共に凄まじい速度で魔弾が飛んだ。


「ほー」

「形状が甘いな。あと回転も少ない」


 指摘される。確かに回転が甘いのか魔弾は真っ直ぐとまではいかなかった。完璧ではなかったが、レニーの撃ちだせる魔弾の速度としては最速であった。


「再現が難しそうだな……」

「当たり前だ。おれが五年かけて完成させた形状だ。ただ、魔弾全部に適用できる形状じゃない。間違いないのはマジックバレットとマグナムの威力は格段に上がるってことだけだ」

「コツは教わったし、あれこれ精度を上げてみるよ。ありがとう」


 レニーが礼を言うと、ユーヴェルは自慢げに胸を張った。

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