冒険者と再会のバレットウィザード
宿屋を決め、衣類をこの辺の気候に合わせたレニーは依頼書の情報を頼りに、鉱山を登った。スティールキャンサーがいるとされる採掘場……の前に設置されている山小屋にたどり着いたレニーは、その扉をノックした。
しばらくして扉が開く。
大柄の男がレニーの顔を見下ろして、目を細めた。
「おう、レニーか。久しぶりだな」
「久しぶり。手紙を見て来たよ」
「来てくれて助かったぜ。とりあえず中入れよ」
中に入る。クーゲルの他に薄く半袖のローブを着た男がいた。薄く焼けた肌に、黒髪が特徴的な男だ。長杖を近くに置いている。
「紹介するぜ、トパーズ冒険者のユーヴェル・フェニルだ。で、こいつがルビー冒険者のレニー・ユーアーンだ」
互いに頭を下げる。
「ユーヴェルもバレットウィザードでな。きっとこいつの魔弾は参考になるぞ」
「そんなクーゲルさんほどじゃ……」
自信なさげに呟くユーヴェル。しかし、等級が上で、なおかつ同じロールであるクーゲルに言われるとなると、レニーにとって参考にならないはずがない。
「あとで教えてほしいな。オレ知識ないし」
「お、おれでいいのなら」
「うん、頼むよ」
等級はあくまで冒険者としての貢献度だ。単純な戦闘能力で上の等級よりも強い……ということはレニーの等級まで来るとほぼ無いが、使っている技術が上ということは珍しくはない。
レニーは魔弾に特化しているわけではないが、頼っている。技術を教わることに抵抗はない。
「で、スティールキャンサーは?」
「まずは荷物を置け。適当な場所でいい」
クーゲルに言われるまま、荷物を置く。
「この先の採掘場に居座ってる。毎日鉱石を食っては寝ての繰り返しだな」
「問題点は」
「俺らのスパイラルでも弾かれるレベルの甲殻を持ってることだな。あと採掘場内だから狭くて敵わん。上位魔法を撃ち込もうにも採掘場ごと壊れる」
「相手が有利か」
「そうなるな」
「……じゃあ、ひとまず行ってくるよ」
レニーはマジックサックを背負い直して出入り口に向かいながら言う。
「おいおい、ひとりで行く気か? しかも今」
「様子見さ。オレひとりで無理そうなら作戦を考えよう」
「にしたってひとりっつうのは」
「採掘場は明るい?」
「いや暗い」
「ならちゃちゃっと見てくるさ。たぶん一番身軽だしね」
レニーは手を振りながら山小屋を出た。
○●○●
暗闇の中を歩く。
魔光石という魔力を通すと光る道具を片手にレニーは進んでいた。
夜目と視力を向上させるスキルであるフクロウの目も、流石に光がなさすぎると機能しない。そのため、ランタンほどではない薄い光を放つ魔光石を使うことにした。皮袋に入れればすぐ光を遮れる。いざというときに動きやすい。何よりスキルがあるので、ちょっとした光があれば十分見える。ランタンはレニー個人で動くには過剰な光だ。
採掘場は巨大な蛇が通ったかのような広い通路をしていた。身を縮こませながらならスティールキャンサーでも通れるだろう。
特殊個体だと聞きつつレニーがソロで挑むのを決めたのは理由がいくつかある。
まず、これで決着させる気がないこと。あくまで様子見のつもりなので撤退を前提に動いているという点だ。討伐せねばならないなんて毛ほども考えていない。
次に暗闇の中であるため、スキルを活かせること。影を操る影の女王に捧ぐや、バフを得る影の尖兵のスキルを十全に使える。
相手側も恐らく採掘場を縄張りと認識しているはずなので、以前のシラハ鳥のように獲物として見られていない。バフを全力でかけて逃走すれば容易に生存できるはずだ。
クーゲルが何度も撤退しているということはバレットウィザード二人が逃走できる程度の執着だと判断できる。レニーはローグなのでバレットウィザードよりは身体能力が優れている。
……クーゲルは体格がいい上に鍛えられた体をしているため、筋力でクーゲルに優っているとは全く思っていないが。
逃走時に出せるスピードは間違いなくレニーの方が上だろう。
しばらくして拓けた場所に出た。本格的に採掘する為の広場だった。くり抜いた岩で作られた橋は破壊され、はしごもなぎ倒されている。明らかな戦闘の跡があった。
奥の行き止まりでスティールキャンサーは寝ているようだった。光沢のある灰色の巨大蟹だ。図体がデカイゆえにルミナが助っ人に来たほうが適任な気もするが、ルミナは別の依頼で出かけていたのでレニーとなった。元々推薦された冒険者がレニーというのもある。
レニーは静かに近づきながらミラージュを引き抜き、影をすくう。影の尖兵によるバフで刃を大きくしながらゆっくり近づいた。
両手で構える。
レニーの潜入に便利なスキル郡が反応して効果を発動していることと、相手が寝ていることもあって間近でも気づかれていない。
「こいつで終われば楽だけど、どうかな」
レニーは大きく振りかぶるとミラージュを縦に振り下ろした。
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