冒険者と事情

 二杖流ディアルウィールドもどきで距離を保ちながら、武器を弾き続けて数分が経った。


「……お前、本当に何者だ」


 汗を拭いながらハリネズミが問いを投げる。周りを見ながら呼吸を整えようとしているようだった。


「レニー・ユーアーン。冒険者やってる……キミは?」

「トバリ。ただの旅人だ」

「ただの、ねぇ」


 レニーは足元にあったロングソードを蹴り上げる。そして、トバリに向けて蹴った。回転しながらトバリにロングソードが飛んでいき、武器を持っていなかったトバリはそれを掴む。


「何の、つもりだ」


 明らかに武器を掴ませた。トバリはそう感じたのだろう。レニーもそのつもりで蹴ったのは間違いない。


もういいかな・・・・・・って。ちなみに職につくつもりある?」

「は?」

「いやぁ、武器持った瞬間まるで雰囲気変わるし、戦い方も切り変わってるからさ。かなりの技術だと思って」


 レニーは痺れがまだ残る右腕に視点を移す。


「あとは威力だ。たぶん全部全力だろ」


 戦いというのはトータルで全力というのが望ましい。全ての一撃が全力であると体の方が持たない。体力も尽きる上に体も壊す。


 例えば剣で岩を斬れるからといって、何度も岩を斬っていると折れる。剣に備えられた機能は「生物を切断できる」であり、「岩や金属を切断する」ことを目的にしているわけではない。万全の状態でたまたま岩を切断できる性能にたどり着いているだけだ。無理な使い方をすれば、壊れるに決まっている。


 それをトバリはおそらくやっている。


 一撃ごとに武器が壊れようが構わない力で叩きつけに来る。しかも全てにおいてある程度の技量が確保されている。


 全て渾身の一撃だ。


 本能のままに全力で暴れまくる魔物にバーサーカウというのがいるが、あれはパールパーティーが簡単に壊滅するレベルの強さだ。慣れていないとトパーズになっても手痛い攻撃を受けまくる羽目になる。


 トバリはそのバーサーカウが理性と武器を引っさげてきたようなものだった。


 そしてトバリはその戦い方をしても、問題ないのだ。


「かなり強いよ、キミ。冒険者やれば稼げると思うんだけど」

半端モノ・・・・をそこまで評価してもらえるなんて嬉しい限りだが、敵を勧誘してる場合か?」


 レニーは杖を仕舞うと、ミラージュを明後日の方向に向け、魔弾を撃った。

 そこから影が飛び出し、レニーに襲い掛かってくる。


「ほい」


 影の手を出現させて、近くの戦斧を掴ませる。そして襲撃者へ叩きつけた。


「オゴッ!?」


 低い悲鳴と共にレニーの目の前に倒れ落ちる。


 レニーが泊まっていた家の、村人の女性だった。


「──出てきなよ、バレバレなんだからさ」


 ぞろぞろと武装した村人たちがレニーとトバリを囲む。


 人を倒してほしいという類の依頼を直接されたら受けない方がいい。なぜなら依頼主が正しいのか相手が正しいのかわからないからだ。


 ひとまず、受ける場合は依頼主を疑いつつ動いたほうがいい。


「村ごと乗っ取られてたってオチかな?」

「なぜわかった?」

「ただの村が賞金首でもないのにハリネズミなんて呼称つけないさ。賊なら賊。村長と会話したけどちっとも怯える様子なかったし、この村人だって、自分の家のはずなのに食器の位置すらロクに覚えてないみたいだったし」


 あと、とレニーは続ける。


「そもそもオレ。ここらで行方不明になった冒険者を探しに来たんだし。手遅れっぽいけど」


 そう。レニーは元々、依頼に向かって帰ってこない冒険者を探しに来たのだ。周辺を調べたが冒険者は見当たらない。情報もここらで途切れている。ハリネズミが冒険者かと疑ったが違った。周辺で村はというと、あそこひとつのみ。


 なら、全部手遅れ・・・・・だったと考えた。それだけの話だ。


 最初から、村ごと疑ってしかいなかったのだ。

 ただの通りすがりの冒険者を装っておけば、荷物目当てに襲われて答え合わせができると思っていたのだが、まさか依頼をされるとは思ってもみなかった。


「トバリはどうする? オレと手を組むか、それとも全員敵にまわすか」

「……組むさ。時間も惜しい。考えるまでもねぇ。何だかわからねえが、味方になるんなら大歓迎だ」


 レニーは強く頷いた。


「さて、弱ったオレらを漁夫の利で始末しようとしてたのかもしれないけど、最期にこの言葉を贈らせてもらうよ」


 レニーは静かに笑う。


 賊狩りのレニー。囲われようが、戦いの結果は明白だ。


「二兎を追うものは一兎をも得ずってね」

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