冒険者と再びの変態

 ひとまず二日。レニーはルゥナの家事を手伝いつつ、ルジィナが使っていた部屋に泊まらせてもらった。


 そして三日目で使いの者がルミナの家を訪ねてきたわけだが……


「いや、まさかあなた方までいるとは」


 黄緑色のローブに身を包んだ女性。紺色の髪がフードからわずかに確認でき、垂れ目の青い三白眼がレニーとルミナに向けられている。


 テーブルを挟んで向かい合ったその女性にレニーは覚えがあった。


「……キミ、風紀委員の仕事は?」


 フロッシュ・シンシィ。カンナギという温泉宿の専属風紀委員をしている女性だった。風紀委員はいわゆる衛兵のようなもので宿内の秩序と安全を守るための仕事だ。


「たまに風紀委員を休んで冒険者の仕事をする許可はもらっている。以前助けたエルフがいてな。その縁で楽え……イヴェール撃退を依頼された」

「今凄い雑念が漏れた気が」


 フロッシュの役割ロール変態バパートだ。嘘みたいなロールだが、これでもカットルビーにして信頼度を示すコンフィデンスラインが最大の手前である四本という輪にかけて嘘みたいな存在だった。


「ちゃんと冒険者としても活動しておかないと試験がめんど……腕が鈍るのでな」


 冒険者の等級は冒険者の仕事をしていなくとも維持できる。が、維持するためには年に一度の試験を受ける必要がある。更には冒険者以外の仕事をしていたという証明も必要だ。


 年に一度面倒な手続きをするよりは定期的に依頼をこなして活動義務をクリアしておいたほうがいい。


「まぁフロッシュのことは後でもいいだろう。重要なものがある」


 フロッシュの背中には弓ではなく荷物が背負われていた。鞘に納められた大剣もある。


「決戦は一週間後。イヴェールがこちらに向かってくる時間を考えればそうなるらしい。フロッシュとあなたたち、それとルジィナ殿は最前線で戦う。ルミナ殿とルジィナ殿が前衛、レニー殿とフロッシュが後衛だ。この国のバッファーにありったけのバフやサポートを受けて戦闘を行い、危なくなれば即撤退、撃退できればそれで終わりだ。撤退した場合は後続の部隊が戦う。詳細はまた当日だな。何か質問は?」


 レニーはルミナと顔を見合わせて頷く。


「ない」

「ではルミナ殿にこれを」


 背負っていた荷物から包みと大剣を引き抜くとルミナの正前、テーブルの上に置いた。


「ルミナ殿の装備一式だ。大剣は魔器、服も装飾品も一級品。アリアドネベルトとやら以外は入れ替えたほうがいいとのことだ。そして慣らしておけとも言われた」


 おそらくどんな冒険者でも喉から手が出るほどほしいものばかりだろう。それが何でもないことようにぽんと置かれている。


 それほどイヴェールが強敵で、そしてルミナが頼られているということだろう。


 ルミナは大剣を手にとって抜く。銀色で鍔やリカッソの部分に紋様が刻まれている。やや幅広の鍔の中心には青く球状の石がはめ込まれている。刃は眩いばかりの白銀で、まるで芸術品のような剣だった。


 今までルミナが使っていたツヴァイヘンダーという大剣のタイプだ。大きさもルミナが愛用していたものとほぼ変わらない。


「レギンエッジ、魔器の名前だ」


 ルミナは頷く。そして包みを持ち上げる。


「……これにも着替えてみる」


 包みと大剣を持って、ルミナは自身の部屋へ消えていった。


「レニー殿はこれだ」


 紙の束と包みが置かれる。


「闇属性魔法の魔法紙と指抜きグローブだ」

「グローブ? なんの効果だ」

「使っていればわかる、だそうだ」

「ふぅん」

「ではフロッシュは任務を達成したので帰る」


 フロッシュはローブを翻して、去っていった。レニーは魔法紙の束をつまみ上げる。


 記述されていたのは上位の魔法だった。




 ○●○●




 しばらくしてルミナが戻ってきた。


 茶色の布服は深緑と黒い布服に変わっており、スリットスカートを履いている。緑色のケープは上腕までの丈となっていた。革靴は厚底のブーツに、胸当てや手甲は装飾の施された銀色の合金となっている。全体的にシュッとした印象を抱かせた。変わっていないのは腰にあるアリアドネベルトとマジックポーチのみだ。


「随分印象変わったね」

「変?」

「いいや。格好いいと思う」


 レニーが正直な感想を述べると、ルミナは腰に手を当てて胸を張った。


「封印霊服、らしい。同封のメモ。書いてあった」


 封印霊服。防具の中でも非常に強力な効果を持っているものが、普段はその効果を封じられている防具のことを言う。ほとんど意図的に封印は解除できるが、中には条件を達成しなければ封印が解けないものもある。役目が終わればまた封印がかかる仕組みだ。剣の場合は封印霊剣のように、最後の言葉が武具になる。封印霊服ということは身にまとっている衣類が該当するのだろう。


「レニー」


 真剣な眼差しをレニーに向ける。


「ボク、もう負けないから」


 いつかのことを気にしてなのか、ルミナがそう宣言する。


はなから心配してないよ、そんなの」


 レニーは笑って返した。

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