冒険者とソロコンビ

 行商人を無事に目的地に送り、依頼を終えた帰り道。ルミナとレニーは並んで歩いていた。


「最後の魔弾。狙った?」


 ルミナが問うと、レニーは視線を向けてくる。


「後ろで杖持って撃つやつかい?」


 頷く。


「武器を捨てたように見せかけて不意撃ちする為だけにできるようにしたんだ。狙ってやったよ」


 口ぶりからして、本来なら後ろに自分で投げて、武器を捨てたと相手が認識したところに後ろにまわした手で掴んで魔弾を撃つのだろう。驚くべきはこの動作が一瞬だったことだ。何せ、魔物を相手にしていては全く使わない技術だろう。それを習熟させているということは、それだけその場面を想定している、ということだ。


「最近、あれこれ試作の杖をつくってもらっててね。自分でもあれこれ遊んでるんだ」


 レニーはホルスターから、まるで魔法のように杖を取り出す。まさに瞬きの間に、というやつだった。杖を改めて見てみると持ち手グリップ部分が斜めになっており、人差し指が引っかけられるようなパーツと筒状のシャフトになっていた。

 人差し指でくるりと杖を一回転させ、ホルスターに戻す。


「……あれは。演技?」


 人質がまるで死んでもいいかのように振舞ったことについて聞くと、レニーは笑みを浮かべて頷いた。


「ああいうやつらは人質が有効だと思ってる。無意味ってわかったら殺さないのさ。殺す価値さえなくなるからね。殺す手間より逃げる方が効率的だしね」


 何度も見てきたかのように……いや、実際何度も見たのだろう。


 これが、賊狩りか。


「ごめん、なさい」

「……何が?」

「ボクのミス。なのに、あのとき、あなたを責めた。薄情だって、怒った」

「仕向けたのオレだし。良かったよ、キミが良い人で」


 それに、とレニーは続ける。


「ソロだとあの人数相手にするの神経使うし楽だったよ。大剣で人が吹っ飛ぶの見るの、なかなか壮観だったし」


 変な男だ。普通は、もっとうまく立ち回ってほしかったとか、そういう感想があるはずだろうに。


「……名前」

「うん?」

「何て呼べばいい」


 ルミナの問いに、レニーはきょとんとした。


「お好きにどうぞ、お嬢さん」

「……レニー」

「なんだい」

「また、依頼。一緒にしていい?」


 やっぱり、もっとこの男について知りたい。


「もちろん」


 ソロ冒険者レニーは答えた。




  ○●○●




 エレノーラは眉をヒクつかせながらカウンターに置かれた杖を見た。目の前の憎たらしい客は平然とした顔でいる。


「早撃ち、どのくらいした?」

「……さぁ」

「逆に聞こうか。普通に撃ったのは何回だ」


 目の前の男、レニーが目をそらすのを見て、頭に血が上る。


「幸い、シャフト部分の軽い補修だけで済むが、通常の使い方もしてくれないと長持ちしない。言ったはずだが?」

「……いや、覚えてるよ。結構持ってる。凄いね」


 凄いね、じゃないんだが!?


 エレノーラは怒りを抑えながら杖の状態を確認する。部品を分けて作成すれば、全体が破損することも避けられるし、修理も容易になると思ったが間違いはなかったようだった。試行回数にして二十……から考えるのが嫌になってやめた。杖、というしかないが構造はもうなんか完全な別物になっている。


 しかもどういう風に部品を分けるかがまだまだ課題ではあるのでまだいろいろ試さなければならない。今度は魔弾に関係する回路だけ別にしてみようか。思ったより厄介な客だ。


「あ、そうそうパトロンになりたいんだ」


 思い出したようにレニーが言う。


「まだ杖はできてないが?」

「これだけ向き合ってくれてるんだ。頼りにしていいだろ」


 真っ直ぐな瞳でそう言われる。

 ……嫌な気はしない。魔道具を創る人間として、むしろ嬉しいくらいだ。


「ではなってもらおうではないか」


 それはそれとしてこいつには何か痛い目にあってもらおう。


 ――そう……例えば…………可愛い顔をしてるので女の子にさせるとか。

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