冒険者と荷運び
荷持ちがメインの冒険者は基本的にマジックバッグの類が購入できるあたりでパーティーを抜けることが多い。
マジックバッグの方が荷持ちの冒険者より優れている……わけでもない。
マジックバッグは大きな物を入れられない。口を開いてその範囲に入れられるものしか入らない。その点荷持ちの冒険者は背中に背負えれば、その冒険者の能力の限界までどんな大きさでも運べる。
マジックバッグは物を手に持てる範囲でしか取り出せないが、荷持ちの冒険者はその限りではない。運ぶ物によっては背負っているものを下ろすだけで済む。
例えば大型の鉱石であったり、大量の食料であったり。そういうものを運ぶ時に荷持ちの冒険者は重宝される。
大型の鉱石となれば身の丈以上の依頼であることが多い為、護衛対象であることが多い。
冒険者であり、護衛対象。それが荷持ちの冒険者の性質の一つだ。
ではなぜマジックバッグを購入できるあたりでパーティーから抜ける荷持ちの冒険者が多いのか。
それは非戦闘員であるがゆえにダンジョン探索や魔物討伐の際、現地に行けない場所が増えること。冒険者にとってそれほどの大きな荷物を抱えていかねばならないことがさほどないからである。そうなると自然と、やれることが少なくなる。
雑務などをやる荷持ちも多いが、トパーズになる際には個人で雑務をできるようにならなければならない。となれば雑務もパーティー全員ができる仕事となってくる。
単純に等級が足りないこともあるが、そのパーティーに居場所を見失い、パーティーを抜けるのだ。そして先輩冒険者として新入りのパーティーに入って導いたり、フリーで様々なパーティーの荷持ちを担当したりする。
「よっ、と」
燦々と照りつける太陽の元。ラウラは食料を詰め込んだ大きな荷袋を背負う。
レニーのほうは依頼の荷物を背負っていない。
「森へしゅっぱーつ!」
拳を元気に振り上げるラウラ。その足にレニーはついていった。
広大な平野の中を二人で歩く。
重い荷物を持っているはずのラウラは歌を口ずさみながら、レニーより早く歩いている。背中の荷袋が揺れる様子はほぼない。
これが物を持っていくだけであればレニーもいくらか荷物を持っただろう。しかし、運ぶというのは言うほど簡単ではない。
荷崩れや物の破損、賊や魔物に襲われるリスクがある。
当然荷持ちの冒険者には荷崩れや物の破損を防ぎやすいスキルを持っているし、技術も知識もある。下手な素人が荷物を持てば、物の破損に繋がる。
無論そうなれば報酬が減るし、下手をすれば賠償を求められる。
そういったことのないよう、専門家に任せるのが一番だ。
何より賊や魔物に襲われた時に守るのがレニーの仕事である。
「ねえねえレニー坊」
「なんだい」
「可愛い知り合いできた?」
キラキラとした視線がレニーに向けられる。
「……いるにはいるけど」
「うひょー今度紹介してよ」
「機会があればね」
「それでいいからさ。そんときは、お願い」
ため息を吐く。ラウラは可愛いものが好きなのだ。主に女の子。
レニーが声をかけられたときもナンパみたいなものだった。
「あんまりグイグイ行かないでくれよ? 引かれるから」
「わかってるわかってる」
絶対わかってない。
レニーは心の中で呟いた。
「誰かがもらってくれればやらなくなるかもねー」
「相手見つけな」
「あーあ、美少年のエルフがあたしに惚れたりとかしないかな」
よし、ルミナからは遠ざけよう。面倒な絡まれ方をするかもしれない。
「そんなの、夢のまた夢ってやつだよ」
「いいじゃん。夢をみるのも夢をみせるのも、冒険者じゃんよ」
冒険者は夢をみせるもの。ラウラの口癖みたいなものだった。
レニーと依頼をこなしてるときに何度も言われた。
「懐かしいね、その言葉」
「レニー坊は夢みれてる?」
「……そうだね」
トパーズからカットルビーになれた。それだけでもレニーにとっては夢のような出来事だった。
何度か死を覚悟して、こうして生きていることも、夢のようだ。
「うん! いいことだ」
背中を思い切り叩かれて、バランスを崩す。背中が少し痺れた。
「あり、そういえば剣は?」
背中を叩いたラウラが、不思議そうに尋ねる。自分の手を握ったり開いたりしていた。
レニーの背中にはマジックサックしかなかった。いつものカットラスは背負っていない。
「今修理中」
「代わりの剣は」
「急ごしらえのやつ使うくらいならこいつだけで十分さ」
そう言ってレニーは自分の
「あらぁ」
ラウラはからかうように笑みを浮かべる。
「オーダーメイド品?」
「まぁね」
「前までは、どうせ壊れるんだから使えればいい、なんて言ってたのに」
「痛い目にあったんで」
武器の重要性をわからなかったわけではない。ただレニー自身体術もあったし、強力な魔物の討伐もあまり行かなかったことから重要度が低かっただけの話だ。
最近の経験からちゃんとした武器は持っておくべきだとつくづく感じる。
「成長したんだねぇレニー坊」
「誰目線なんだその言葉」
「ラウラお姉ちゃん視点、ですッ!」
「……そうかい」
横目でラウラを見ながら、レニーは歩き続けた。
木こりの家は森の中。もうしばらく、会話を楽しむ時間があった。
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